いくつかの研磨した石193
兵庫県川辺郡猪名川町南田原辻ヶ瀬 辻ヶ瀬鉱山の斑銅鉱―閃亜鉛鉱―方鉛鉱―黄銅鉱からなる鉱石を一面研磨しました.当地は青鉛鉱の標本が良く出回っている産地で,バス停からの近く便利なところにありました.有名な多田銀山の東の延長のような鉱床で,付近にも似たような旧坑がたくさんありました.
この地域に通うようになったのは15年くらい前で,この時はしっかりとした案内人がいてくれました.「この石はあかん,この石もかん.」と云っていろいろ高品位鉱について教示してもらっていました.そのおかげかこの付近の鉱石はだいたい判別できるようになりました.
通い始めて数年後くらいに沿革を調べるようになりました.多田銀山に関しては古くからいろいろな文献に掲載があって比較的入手が簡単でした.問題は周囲の小さな旧坑でした.学術論文に記載されている名称やコレクター間での名称を使用していたのですが,古い記録を調べていくうちにいろいろなことが分かってきました.どちらが正確かは判断できませんが,文献にある以上手持ちのノートに文献の奥付を添付した上で記録していきました.
やや沿革のはっきりしている多田鉱山に比べこちらは,数冊の文献に少しその名が見える程度の鉱山のようです.古い記録によれば明治の初めごろに鉉ヶ盛鉱山の名前で旧坑取明け工事し探鉱していたという.その後の沿革ははっきりせず,文献にもあまり出ていないため詳細は不明です.鉱山の北西にも同じような鉱脈を追った旧坑があり,こちらも青鉛鉱などの二次鉱物が少量ありました.のちに文献で北側にある旧坑が「千歳鉱山」と称したことが判りました.
上の標本は15年くらい前の野外研修会か何かで一度訪問した時に,サンプリングした標本です.それからはどういう訳か訪問しておらず,今どうなっているのかは判りません.表面にたくさん青鉛鉱などの二次鉱物が吹いていたのですが,成形時にハンマーで斫り取ったので殆どついていません.それでも取りきれなかった部分を今回一面研磨にしました.
(研磨)前回と同じく斑銅鉱を含む雑鉱の鉱石ですが,硬度の高い石英が入っているので,前回と同じようにはいかないと予想して磨り始めました.予想通りでけっこう硬く,硬い石英の部分だけが浮いていって,金属の部分が先に磨れてしまいました.ベビーサンタ―を使用し先に石英の部分を掘り込んでから周囲の金属の部分を石英の高さに合わせるように研磨しました.時間はかかりましたが,何とか水平に近くなるくらいまで研磨できました.仕上げは2000番手のペーパーで少し擦ったあと,青砥で光沢を出しました.
(以下,拡大写真です)
今回は指示をつけてみました.
もともと酸化被膜にたくさんの二次鉱物が付いていたので,内部は斑銅鉱が多いものと予想していましたが,あまり入っていませんでした.標本の外側に少し赤銅色部が入っている程度でした.また,内部に含まれる石英の裂罅に自然銀が生成していました.カッター傷のようなものが微かに残り,早くこの部分が磨れたようでした.全体の黒色部は指示していませんが,閃亜鉛鉱です.
ほかの部分もだいたい似たような鉱物の集合でした.このカット面には四面銅鉱や褐錫鉱のような鉱物は見られませんでした.
研磨面以外の表面についているかもしれないので,顕微鏡下で撮影したところこちらにも肉眼で判るような四面銅鉱や褐錫鉱は入っていませんでした.
四面銅鉱や褐錫鉱はありませんでしたが,俄かに残る酸化被膜を構成する青鉛鉱などの鉱物のほかに,カレドニア石と白鉛鉱が付いていました.