いくつかの研磨した石117
埼玉県秩父郡東秩父村朝日根のオムファス輝石を一面研磨してみました.当標本は10年以上前に関東のコレクターと標本交換の際についてきた石です.「変なものが入っているかもしれないが,気にしないで・・・」と言われました,その変なものがこれだそうです.一応どういうものか伺うと,「切っては見たものの,気に食わない」らしく「いらんかったら捨てて」とのことでした.それから10年以上経って標本を整理していたら出てきました.ヒスイ輝石に関連する鉱物はすべて硬いという先入観があって,ヒスイ輝石が入っているか入っていないかは別として,磨ってみるのを躊躇って,ラベルを付けたまま机の上に置きっぱなしになっていました.
一面研磨に慣れてきたここ3ヶ月でボチボチ磨っていたらモノになってきたので,仕上げを一気にしました.因みに当方は現場に行ったことがありません.
磨っていない面です.
(研磨)硬いことを前提にボチボチすり始めました.切断機の跡を取るのに時間がかかってしまい,なかなか仕上げにまで至りませんでした.仕上げは青砥でしましたが,砥石が負けてきたので途中で硬い粘板岩に替えて磨りました.
(以下,顕微鏡写真です)
1枚目の写真の中央の部分の拡大です.角閃石類のようですが随分と変質しているようです.
白色脈の近くの拡大写真です.黄色っぽく見えるのは緑簾石です.
角閃石類―緑簾石の部分を切る,曹長石の脈の拡大です.
白色脈の拡大です.
鮮やかな緑色部がオムファス輝石だそうで,白色部が曹長石,濃緑色部が角閃石類.
その2
和歌山県田辺市本宮町大津荷 松畑鉱床のホタル石を一面研磨してみました.5年ほど前に提供された標本です.ホタル石自体はあまり好きな鉱物では無いために,置きっぱなしになっていました.共存鉱物に乏しいのが理由でした.ホタル石を主要に採掘していた鉱山では共存鉱物はあっても2種か3種類ほど,当方もいくつかのホタル石山に訪問しましたが,あっても黄鉄鉱か玉髄くらいでした.金属鉱山にも脈石として産するところは山ほどありましたが,ホタル石の出るところは石自体が単調で,シッチャカメッチャカになったようなややこしそうな石にはあまり入ってこない印象でした.また恐ろしく研磨しづらい石でホタル石の硬度が低いため母岩だけ残ってホタル石だけが摩耗して凹地になってしまうことで敬遠していました.今回の石は全体がホタル石で部分的に泥質岩が残っているサンプルでしたので一面研磨してみました.
(研磨)ダメ元で一気にすりあげました.ホタル石の脈の部分がやはり早く削れてしまうため,先に泥質岩の方を削りました.平坦にするのがやっとで,そのあと仕上げしました.青砥との相性が悪く,研磨チャートで磨ると傷だらけになり,再度磨り直しになりました.柔らかいことだけが救いで,再び平坦にしたあとやや硬い布地で擦りまくるとなんとかみられる石になりました.
(以下,顕微鏡写真です)
上部の脈状になった部分の拡大写真です.内部に包有物が入っていましたが,小さすぎて判別できませんでした.
こちらは母岩の部分です.母岩は熊野層群の泥質岩で,内部に硫化鉱物の細かい結晶が入っていました.当初は輝安鉱かベルチェ鉱を期待しましたが,光沢が鈍いのと磨ってしばらく置くと,曇ったようになってくるのでこの線は消しました.つぎに似た鉱物を考えると硫砒鉄鉱が浮かんできました.これに似た石は舟原鉱山のアンチモニー鉱床で見たことがありましたが,やはり色と光沢が黄色っぽく,この線も消しました.
10枚目の写真の少し下にある硫化物の集合の拡大写真です.写真中央部に六角板状の結晶面(とおもう)が反射しています.針状に見えたぶんもほかの方向から強い光を当てて拡大すると六角板状でした.ここで北海道の豊羽鉱山から出た毛鉱に伴う磁硫鉄鉱結晶を思い出しました.もしかして...磁力テストをしたら結構強く磁石が引き寄せられました.磁硫鉄鉱だったようです.