研磨石
いくつかの研磨した石２５３
滋賀県大津市膳所平尾町鳴滝鉱山の層状マンガン鉱を，十字に切る菱マンガン鉱脈を一面研磨しました．鳴滝鉱山の石は以前にばら輝石からなる集合を研磨しています．
自採のサンプルを整理していたところ層状マンガン鉱を層理に縦断する菱マンガン鉱を含む石が目に留まりました．脈幅は約20㎜あって，肉眼的な石榴石や閃亜鉛鉱を含んでいた．こういう石にはヘルヴィン(Helvine)が入っていることがありましたので，ダメ元で磨ってみました．
(研磨)
未研磨面の中央に層理の直角に菱マンガン鉱脈が走っていたので，軟らかいと思って，裏面の二酸化マンガンの酸化被膜に覆われたところを，研磨しました．はじめから凹部があったところが最後までしつこく残ってしまって，平滑にするのに時間がかかりました．
磨っていて途中で分かったのですが，層理に並行に同様の菱マンガン鉱脈で切っていました．標本の真ん中あたりでクロスして，十字のように見えてきました．最後まで磨るとそれなりに見えるかな～と思って今回は頑張って最後まで磨りました．暗灰緑色の緑泥石類が十字の脈の際に沿っていて，脈が貫入したときに断裂したのか，一部が脈中に取り残されたような感じで，緑泥石類の集合が脈中に挟まっているような部分がありました．
緑泥石からなる脈は，色が濃くなっている部分に磁硫鉄鉱や黄銅鉱などの硫化鉱物をたくさん含んでいました．黄鉄鉱はどこでもある鉱物ですが，この集合の中には含まれていませんでした．菱マンガン鉱の脈の中に単独で一粒だけ確認しました．
仕上げはペーパーの1000番手で軽くこすったあとで，青砥に替えて研磨したところ光沢が出てくれました．
(以下，顕微鏡下での観察です)
この石にはばら輝石の類は無いらしく，層状になった部分のピンク色部，それらを切る鮮やかなピンク色脈も菱マンガン鉱でした．一部を欠かして，塩酸で反応をみたところ両者とも溶けきりました．
磁硫鉄鉱(Pyrrhotite)．研磨したサンプル中で最も多く含まれる硫化鉱物でした．にわかにピンク色味を帯びた銀白色金属光沢で，珪酸に乏しい菱マンガン鉱中にはありませんでした．灰緑色部は緑泥石のみと思っていたのですが，石英に染まった感じで緑泥石が入っているようでした．
閃亜鉛鉱(Sphalerite)．磁硫鉄鉱の次に多い硫化鉱物が閃亜鉛鉱でした．鉄黒色部がそれで，褐色の満礬石榴石を伴っています．
黄銅鉱(Chalcopyrite)．縦と横に入る菱マンガン鉱脈の中央くらいに少しだけ入っていました．周囲にほかの硫化物を伴わずに脈中に単独で入っていました．
黄鉄鉱(Pyrite). どこの鉱床での普通に見られる硫化鉱物です．普通に見られるはずなのに，この集合ではこの1粒しか確認できませんでした．上の方に写っているのは磁硫鉄鉱．
層状のマンガン鉱を構成する菱マンガン鉱です．あまり硫化鉱物は含まれていませんでした．含まれていても粒が小さく緑泥石類が多い部分に磁硫鉄鉱を少し伴う程度でした．
脈を構成する菱マンガン鉱です．脈中に灰緑色の部分がありますが，緑泥石の類ではなく，劈開の一部が半透明になっているのを顕微鏡を通して肉眼で確認しました．劈開が判るように光源の角度を変えていろいろやってみましたが，うまく写りませんでした．
満礬石榴石(Spessartine)．褐色味の強い満礬石榴石です．当地には黄色に近い色の石榴石も産しています．結晶の外形が出ている部分を撮影しました．周りに黄色の雲母のような鉱物を伴っています．石榴石の入っている部分は後から切った菱マンガン鉱脈のみに含まれていました．
ヘルヴィン(Helvine)．ようやく当たりました．ヘルヴィンです．黄色―緑黄色をしている三角形に近い輪郭をしています．組成の中に硫黄を含んでいる珪酸塩鉱物ですが，周りにあまり硫化物がおらず，少し離れたところに入っています．
赤褐色部は満礬石榴石です．灰白色は菱マンガン鉱．上の方に写っている金属光沢部は磁硫鉄鉱です．