顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真110
―満礬石榴石―
産地:Navegadora claim,Penha do Norte,Conselheiro Pena,Minas Gerais,Brazil.
(非売品).
Spessartine 満礬石榴石
(スペサルティン,スペサルティンガーネット)
[組成] Mn3Al2[SiO4]3
[結晶] 立方晶系.偏菱二十四面体,直方12面体,板状になることも.またn{211}面に条線が発達することがある.
[色] 灰色・淡黄色・黄色・灰黄色・黄褐色・黄橙色・橙色・赤・赤褐色・深紅色・暗赤色・帯紫赤色など,ほとんど黒に近い色まであり.
[光沢] ガラス光沢.
[モース硬度] 6.5~7.5
[比重] 4.20
[劈開] 無し. 裂開が発達することがある.
[条痕] 白色.
つぎは石榴石系統の鉱物にしました.和名の満礬石榴石は満=マンガン(Mn)で礬=アルミニウム という意味です.マンガンとアルミニウムを主成分とする石榴石です.主にマンガン鉱床やペグマタイト,ある種の流紋岩,石英安山岩,接触変成岩,いわゆる気成鉱床,広域変成岩などから産します.
上の標本はヘルヴィンや燐灰石・フォイト電気石などを産するペグマタイト中の標本で,衝動買いしました.(決して安くはありませんでしたが) 深紅の満礬石榴石で,かなり強い光源の照射のもと撮影しました.写真の一部が暗いのは不透明というわけではなく厚みがあり,表面まで光が届いていないため暗い.全体的に透明感があり,光沢もかなり強い.
いつもは海外産の鉱物をいくつか挙げるのですが,どういうわけか満礬石榴石の標本がこの産地のものしかなく,以下は国産の標本になっています.国産の標本も,どういうわけかほかの石榴石の標本より標本産地の数が少なく,5~6箇所にすぎません.これをアップするにあたって再度顕微鏡撮影しました.
産地:京都府木津川市加茂町河原 相楽土建採石場跡(通称.法花寺野)
領家帯の花崗岩類と堆積岩とのコンタクトにあったマンガン鉱床で,マンガン鉱の採鉱後に採石場になった,関西のコレクタ―間では有名な現場です.鉱山は二酸化マンガンを主に稼業していたらしいのですが,その後に採石場になり砕石が進んで二酸化マンガンの鉱体の下部にあった珪酸マンガンのレンズが顔を出しました.それも数年か数十年で無くなり,採石場から資材置き場になりました.最近に前を通ることがあって道路から現状をみたところヤブになっていました.珪酸マンガン以外に単純スカルンとペグマタイトがあって,1箇所で3通りの産状が観察できる現場でした.上の標本は15年くらい前にサンプリングした標本の一つです.橙色―暗褐色部が満礬石榴石です.白色部は珪岩の部分と氷長石の部分が写真では判別できないですが,伴っています.
こちらも同じ産地の満礬石榴石で,こちらは購入品です.先ほどの標本よりもマンガン分が多いのか黄色味が濃く,コントラストが良い標本です.下地のピンク色はばら輝石です.一番大きな石榴石の直径は約15㎜あります.
産地:愛知県豊川市萩町久田野 愛知採石場(非売品).こちらも領家帯の砕石場で,採石中に小規模なマンガン鉱床が顔を出した現場です.母岩はわずかにバスタム石を伴った珪岩中の満礬石榴石です.石榴石の直径は約8㎜あります.
産地:長野県小県郡長和町東餅屋 和田峠(非売品).
和田峠の満礬石榴石です.石英安山岩が風化し分離した石榴石です.鉄礬石榴石と満礬石榴石との中間に近いもので,真っ黒に近い色をしています.結晶の大きさ約7㎜.
産地:岩手県下閉伊郡岩泉町下有芸肘葛 新玉川鉱山(肘葛鉱山).(非売品).
提供品です.花崗閃緑岩の貫入による熱変成を受けたマンガン鉱床とのことです.稼業時には道路に隣接してばら輝石質の鉱石が山積みされていたそうです.石榴石の母岩は珪岩(チャートホルンフェルス)で石榴石のほかに特筆するような鉱物はついていませんでした.標本中の最大の結晶の大きさは約6㎜です.
産地:佐賀県唐津市厳木町笹原 厳木鉱山新坑鉱床(非売品).
20年くらい前,学生の頃に3度訪問しました.熱変成を受けたマンガン鉱床で,ばら輝石やテフロ橄欖石を主とする部分や,石榴石だけからなる部分,テフロ橄欖石にヤコブス鉱―マンガンスピネルが鉱染する部分などがありました.上の標本はほぼ満礬ザクロ石からなり,少量のばら輝石やパイロファン石を伴っています.一番大きな結晶でも約3㎜と全体的に大きさは小ぶりでした.
産地:福島県いわき市田人町黒田 御齊所鉱山(非売品).
提供品です.マンガンを主成分とする無水砒酸塩鉱物や含水砒酸塩鉱物を多産した鉱床で有名な現場です.主な鉱石鉱物はブラウン鉱のようで砒酸塩鉱物は割れ目系に薄く産しています.上の標本はかなり色が淡い満礬石榴石です.標本としてはサイズも小さく色も控えめなので,ほかの標本をあまり目にしたことがありません.母岩のピンク色はばら輝石です.
産地:兵庫県川西市国崎.(購入品で非売品)
5年くらい前に購入した標本です.超丹波帯の緑色岩に伴われる小規模なマンガン鉱床で,鉱床名のよくわからないらしく,産地名も大字で止まっています.この付近は超丹波帯の緑色岩ないし頁岩からなっていて,古くより鉄や銅を稼業した古い鉱山が犇めいている地域です.マンガン鉱床はいくつか知られていますが,新産地とのことで購入したという経緯のある標本です.母岩はばら輝石で,結晶はしていませんが,細かい粒状で見た目塊状に見える石榴石です.現場へ行って,目にする石榴石は稀に結晶のこともありますが,一般的にはこういう石榴石であることが多いです.
産地:滋賀県彦根市正法寺町地蔵山 大堀鉱山(非売品).
25年くらい前に訪問した際にサンプリングした標本です.掃除する前は二酸化マンガンで真っ黒でした.なんどか掃除しているうちに下の方から鮮やかな満礬石榴石が出てきました.石榴石の母岩は二酸化マンガンに置き換わっているらしく,ばら輝石などの珪酸マンガン鉱物は見当たりませんでした.
産地:山口県岩国市玖珂町谷津 蓮華鉱山(非売品).
4年くらい前の今頃の季節に行ってサンプリングした標本です.強い熱変成を受けたマンガン鉱床です.ズリは汚いばら輝石と石榴石くらいで,マンガン鉱物以外に塊状の磁硫鉄鉱や黄鉄鉱などが見られる現場でした.上の標本は珪岩中にあった満礬石榴石で,珪岩の割れ目に薄い方解石を挟んでいて,これを希塩酸でエッチングしました.方解石の部分はわずかな厚みしかなく,すぐに珪岩で溶けなくなりました.この標本にはほかに白色繊維状の角閃石類を伴っています.