巡検
井戸祖父谷
京都府京都市右京区京北井戸町
今道の滝を辞して,井戸祖父谷も見に行きました.上流に丹波Ⅰ型とⅡ型の境界があって,いろいろな岩石が見られました.
この谷に着目したのは10年以上前に祖父谷橋から祖父谷峠を経て桟敷ヶ岳に登ったときで,川原に玄武岩様の岩石がちらほら見られました.その後に水砕岩中に石灰岩が挟まっているのが判って,この中に石灰カイメンやコケムシ,腕足類,単体サンゴ,ウミユリなどを見ました.また人伝に伺った話として防御態勢の三葉虫も出たとか(これは後に観察しました).
化石観察がひと段落してその後にほかに鉱物が何か出ていないかを探索しに行っていました.先ず谷の下流で緑色岩化した玄武岩質を切る脈として重晶石を確認しました.一部に間隙があって,白色ないし灰白色ガラス光沢板状を呈する結晶も確認しました.
堰堤の上流でこれまた玄武岩質岩を切る淡紅色の脈をなすものがあって,XRDでチェックしたところ,微斜カリ長石でした.面白い産状で研磨石シリーズにも登場しもらいました.一部の間隙に角柱の結晶が見られ納得しました.
ほかに黒色頁岩中に茶褐色の焼けを生じた黄鉄鉱脈がありました.頁岩の分解しかかった部分を欠かして割れ目を見たところ,黄色の鉄明礬石?ができていて,周囲に無色―白色の透明な石膏ができていました.
川原に転石でよく見る水砕岩の一部に新鮮そうな玄武岩礫が挟まっていて,これの空隙から緑簾石と菱沸石を見ています.またこの玄武岩礫は斑晶の輝石が粗く,一部に緑色のものも見られました.透輝石のようで,サンプリングしようと思いましたが,転石のサイズが大きく断念しました.
それから谷の入口付近は丹波Ⅰ型の層状チャートが挟まっているところがあって,以前に災害で工事をやっていたことがあって,その土砂積場の層状チャートより石墨(準石墨というべきか,非晶質に近い炭素物質)を見ました.近くにマンガン山がありそうな感じがありましたが,こちらは未探索です.
今回行った川原は砂防堰堤の上で,普段は水がちょろちょろと流れているのですが,今回は降雨が少なく,伏流水になっているのか表面に水が全くありませんでした.
川原.普段は左手に水が流れています.今回は伏流水になっているのか全く表面に水がありませんでした.
過去に何度か書いていますが,岩石の説明が無かったので現場写真を撮りました.
石灰岩.イモジ谷との出合付近の転石.以前はもっとたくさんあったのですが,今回はほとんど見られませんでした.
水砕岩中に挟まっている石灰岩.このものはずいぶんと黒っぽく見えました.一部に白色の多いものがあって,こういうところに肉眼的な化石をかつて産しました.
以前に更新したときの画像を転載.こういう化石が見られました.イモジ谷の出合付近の産出です.
半分以上緑色岩化した玄武岩質岩ないし同質凝灰岩.こういう網目状に入ってくるピンクの脈は微斜カリ長石でした.
赤白チャート.水に濡れていて非常に赤く目を惹きました.大きすぎるので撮影だけしました.
水砕岩.いろいろな岩石の破片を取り込んだコンクリートのような岩石で,基質の部分に細かい輝石を含んでいました.境界が若干ぼやけて見えましたので,結晶の周囲は角閃石になっているのかもしれません.
頁岩.小さな転石は上流に少しありました.薄い泥岩のような層を挟むものもありました.一部に黄鉄鉱が入っていてその部分が著しく分解しているものもありました.また,頁岩中に細い(幅約5㎜)の花崗岩が貫入しているものがあって,周囲は小規模に黒雲母ホルンフェルスになっていました.
混在岩.元が何かよくわからないくらいいろいろな岩片を含んでいました.緑色っぽく見えるのはおそらく緑泥石の類かと思っていましたが,表面観察で一部に緑簾石が入っていました.
堰堤の入口付近にあった硫化鉄の焼けを含む頁岩.以前はこういうものがたくさんありましたが,今回はこれ一つでした.
拡大するとこんな感じで,黄色い鉄明礬石様の鉱物がついていました.
鉱物は今回は一つだけで,灰色―帯青白色で泥質岩の挟みがある層状チャートの割れ目を充たすように層状をなすアラレ石と方解石の集合がありました.有名な大鹿村鹿塩のアラレ石のような外観で,色は少し白っぽい感じでした.鹿塩のは破砕された超塩基性岩を母岩にしていましたが,こちらのは前述どおり層状チャートで,炭酸泉の名残かもしれません.
当地で観察できた鉱物は過去のものも含めて,石墨(準石墨)・黄鉄鉱・黄銅鉱・石英・赤鉄鉱・褐鉄鉱・方解石・アラレ石・重晶石・石膏・鉄明礬石?・緑簾石・透輝石・緑泥石・微斜カリ長石・菱沸石など.
帰りに井戸祖父谷の入口の北側にある谷に入ってみました.入口が曲渕のようになっていて,チャートの壁が左に出ていたので,滝があるかもと予想しました.
国道477沿いの谷の入口.
入口入ってすぐくらいに2段2mくらいの段瀑?がありました.少し離れてもう一段ありました.
上の渓流瀑.
上のもう一段の段瀑の上流は近接して治山堰堤があってこれの上にも上りました.
堰堤.向かって左側に巻道がついています.
これより上流は滝が無さそうですが,少し遡ると2mくらいの滝がありました.
無名の小滝.落差は1.8m~2mくらい.水があればそれなりに見えるだろう.
滝の落水口より.滝つぼはしっかりできていました.
これで一連の巡検は終了しました.