研磨石
いくつかの研磨した石269
大阪府豊能郡能勢町下田尻 名月鉱山の含銅石英脈を一面研磨しました.以前の回にも当地の珪孔雀石を研磨しました.
名月鉱山は府道の通る名月峠の南側の山の斜面にあって,いつごろから稼業されていたのかは不明ですが,明治29年頃の文献に記載があるため,このころには稼業していたようです.超丹波帯の緑色岩中の鉱脈鉱床で,やや酸化帯が発達し,珪孔雀石の脈の分厚いものや,空隙に鮮やかなブロシャン銅鉱などを産しました.現場に初成鉱物はほとんどなく,わずかに上のような石英脈に伴った黄銅鉱が見られる程度でした.
上のサンプルは十数年前にサンプリングした石で,表面に粘土化した母岩とボソボソの珪孔雀石の層を伴っていました.石英脈がけっこう分厚いのでここに沿って,石英脈だけを残すように小割しました.裏面は広く水酸化鉄鉱物に覆われていたため,この面を一面研磨しました.
未研磨の面.
(研磨) 母岩の緑色岩が風化したのか,それとも熱水の影響で蛇紋石のような鉱物に変化したのか判別しづらいツルツルの緑色岩で,硬度的には柔らかいので,一気に磨り上げました.研磨していると石英のほかに白色の鉱物があって,硬度が若干低く,光沢の出づらい鉱物があるのに気づきました.にわかに緑色ないし灰緑色を帯びていて,未研磨面を詳しく観察したところ白色ないし灰緑色部は「ぶどう石」でした.大阪北部のぶどう石は同じ超丹波帯の緑色岩の露頭がある「はらがたわ峠」の南側でも繊維状のぶどう石を見ています.
ぶどう石は特殊な鉱物ではなく,緑色岩が変質したようなところや広域変成を受けたようなところ,スカルン,ペグマタイト,変斑レイ岩,安山岩・玄武岩などの孔,変成マンガン鉱床と幅広い産状があるようです.今回のこの石のぶどう石は角礫状になった緑色岩の間隙を充填するように入っていました.
石英も入っていましたが,量的には少ないので,粗削りは比較的早く終わりました.中磨ぎで粗い青砥で少し磨ったあと,黄色の砥石で仕上げしました.
(以下,顕微鏡下での観察です)
暗緑色で蝋質感のある部分は緑色岩の腐った母岩.黄褐色は水酸化鉄の染み.黄銅色金属光沢は黄銅鉱,光源が強く出て反射して見える粒は主に黄鉄鉱です.鉄黒色亜金属光沢の粒は閃亜鉛鉱,草緑色は緑簾石でした.鮮やかな青色は珪孔雀石.
珪孔雀石の充填している部分の拡大です.全体的に緑色味の強い珪孔雀石ですが,右上の方に青色味の濃い部分がありました.
黄銅鉱の多い部分です.背後の黄色は緑簾石でした.
閃亜鉛鉱の粒の拡大です.緑色岩の母岩と閃亜鉛鉱の境界に白色の粘土鉱物を伴っていました.
こちらが前述のとおり,ぶどう石です.ボヤ~っとしている白色―淡緑白色部がぶどう石でした.
未研磨の面の空隙にあったぶどう石.方解石が充填していて,希塩酸で処理して出しました.かなり小さいです.