石の話
案外無い鉱物11
―八丁岩の安四面銅鉱―
京都府京都市右京区鳴滝 吉兆鉱山八丁岩鉱床(非売品).
16年くらい前の5月に京都市北区にある沢山(標高516m)へハイキングに行ったときに,吉兆鉱山八丁岩鉱床に寄りました.ハイキングがメインでしたが,小さい小割用のハンマーを持って行っていて,山城鉱山と吉兆鉱山八丁岩鉱床,北鉱床・南鉱床,護法谷鉱床とハシゴして,最後に金閣寺鉱山と6箇所めぐりました.
八丁岩鉱床は山城鉱山や北鉱床・南鉱床・護法谷鉱床とは流域が別で,沢山の分岐から東に一つ鞍部に下って,そこから南に派生する小さい尾根を下ると,林道に出て東の方へ下って行ったところに出会う小さな谷にありました.10年以上前のことですので,細かいことは覚えておらず,谷の出合に少しマンガン気のある石があって,そのうちの一つにハウスマン鉱の破面が出た拳サイズより少し大きいくらいの転石がありました.ハウスマン鉱は高品位鉱石になる鉱物なので,端をもう少し欠かして内部までハウスマン鉱であることを確認してそれと,もう一つカリオピライトからなる鉱石の2つをサンプリングしました.
帰ってからハウスマン鉱を小割して90㎜×75㎜×20㎜の箱に入るサイズにしました.それが2点取れて,もう一つは割れ目に自然銅が菱マンガン鉱に伴って樹枝状に付いていましたので,自然銅の標本にしました.2つは標本にしましたが,半分残り,何に使うかは考えずに黒色部に白ペンで八丁岩と小さく書いて置いておきました.
今日,15年ぶりにその時のハウスマン鉱が出てきました.よく見るとハウスマン鉱にいくつもの割れ目が入っていて,表面に孔雀石のような二次鉱物が吹いていました.脈が分厚そうなところを選って,脈の中央で割れるように小さい斫り用ハンマーで割りました.弱いところが他にあったらしく,一つは黄ばんだ脈のところで割れました.斫り用ハンマーをもう一回り小さいものに替えて,今度を少しずつ,軽くたたいて変なところから割れないように気を付けてハンマーを振りました.
うまくいったかはわかりませんが,見た目で黒色の筋のところで割れたのを確認しました.銅の鉱物を期待しましたが,肉眼的に黒っぽく,「これはハズレかな~」と思って,ダメ元で割った面を希塩酸に数秒漬けました.そのあと軽く水で洗い流して,過酸化水素につけて,こびりついている二酸化マンガンを落としました.あまり塩酸に長い間つけておくと,チョコレート色のハウスマン鉱が脱色されてガサガサになってくるため,長時間浸けておくのはお勧めしません.
母岩の様子を見計らって再び水で洗い流して,乾燥させました.表面に黒~銀白色金属光沢の粒が見え,ルーペで確認すると四面銅鉱でした.ほかに斑銅鉱もありそうですが,酸につけたところで赤銅色だった表面があっという間に黒変してしまうので,はじめから黒かったこの鉱物は斑銅鉱では無いと判断しました.輝銅鉱もありそうですがこの脈の表面に孔雀石などの二次鉱物は無く,ただ黒いだけといった印象の脈で,黄銅鉱を多量に伴っていましたので,この線も無いと判断しました.残るは四面銅鉱で,どこかに三角形の破面か,正四面体は入っていないか,顕微鏡観察しました.
一部空隙に正四面体を確認しました.八丁岩鉱床付近はほとんど熱変成を受けていない炭マンを伴う鉱床だそうで,こういうところの脈で入っている四面銅鉱類は安四面銅鉱が多いとの情報があって,まわりに黄色い粉末も伴っていましたので安四面銅鉱にしました.四面銅鉱が腐って二次的に出来る鉱物名が頭に浮かんで来ず,この黄色い二次鉱物がどの鉱物にあたるかは検討していません.
画像中央の三角形に見える部分.一応結晶と呼べそうです.かなり小さいです.結晶のまわりの黄色い粉末状部は多分,アンチモンの二次鉱物.左上の方に見えている黄銅色金属光沢部は黄銅鉱.白色に見える部分は菱マンガン鉱.灰白色―暗灰色は黒鉛盤のような黒い珪質の部分.
一つ,四面銅鉱の結晶を見つけて,気をよくして他にもついていないか,顕微鏡観察しました.黒色―銀白色の粒は暗灰色の珪質部にふんだんに入っていて,量的には黄銅鉱と同数か,それを超える量が入っていました.ただしすべてルーペサイズで,強い光源のもとで観察したら金属光沢が見える程度でした.
以下、別の部位に付いていた四面銅鉱の拡大写真です.
さらに拡大しました.四面体の結晶が2つくっついたような印象です.
4枚目の写真の右上に付いていた四面銅鉱の拡大です.こちらは結晶が割れています.
こちらも別の部位についていた四面銅鉱の拡大です.
こちらは黄銅鉱を伴った部分の拡大です.
黒っぽい四面銅鉱は四国の含銅硫化鉄鉱床の石英脈が切るところで見たことがあって,別子鉱山の水銀の入っているという四面銅鉱に酷似していました.
別子鉱山の四面銅鉱は購入した標本ですが,数年前に穴内鉱山―市之川鉱山へ四国巡検をしたときに寄った,基安鉱山で黄鉱に近い含銅硫化鉄鉱を切る石英脈に四面銅鉱を見ました.今回の標本はこの標本にも似た色をしていて,水銀を含んでいるのかもしれません.過去に八丁岩鉱山では,辰砂や鶏冠石といった鉱物が出ているという記載があって,同じような温度でできたのか,四面銅鉱を伴っている脈には辰砂は見られず,少し離れた石英脈から赤色微粒の辰砂をこの標本からも見ています.
次にほかの鉱物です.脈以外の母岩は赤褐色(チョコレート色)のハウスマン鉱からなっていて,ほかに少量の灰白色―淡桃色ガラス光沢の菱マンガン鉱や,茶褐色―暗褐色ガラス光沢のカリオピライト,それに伴って灰緑色油脂光沢のテフロ橄欖石を少量伴っています.
ハウスマン鉱と菱マンガン鉱との境界付近を拡大した写真です.赤褐色―褐色塊状のハウスマン鉱が右側を占め,左側に淡桃色―灰白色の菱マンガン鉱からなっています.左上部に赤銅色金属光沢を呈する自然銅を伴っていました.
こちらは,先ほどの四面銅鉱を含む脈と,チョコレート色のハウスマン鉱との境界付近の拡大写真です.ハウスマン鉱との境に白色―灰白色の菱マンガン鉱が介在しています.
黄銅鉱を多く含む部分の拡大です.脈が肥大化したところに四面銅鉱の粒が確認できました.銅の初成鉱物は黄銅鉱と四面銅鉱だけで,自然銅は二次的のようです.
別の石英脈に辰砂のような赤い点を見つけました.めっちゃちっさいため,これ以上は判別できませんでした.
こちらは,孔雀石です.二酸化マンガンに覆われた面を成形で落としたところ内部より出てきました.
暗黒色―暗灰色の脈の表面を顕微鏡で観察していると,四面銅鉱がそのまま二次鉱物に変わったようなところを見つけました.画像左下に見える三角形の破面の部分です.仮にアンチモンの二次鉱物として,黄安華がありますが,最近,いろいろなアンチモンの二次鉱物が本邦で確認されていて,どの鉱物になるかはわかりませんでした.また四面銅鉱がアンチモン主成分ではなく,砒素主成分の四面銅鉱なら,近くに吹いている緑色の鉱物は銅の砒酸塩鉱物かもしれません.