顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真134
―ニッケル華―
産地:Km3 open pit, Km3 mines, Lavrion mining district, Lavaerotiki,
East Attica, Attica, Greece.(非売品).
Annabergite ニッケル華
[組成] Ni3[AsO4]2・8H2O
[結晶] 単斜晶系.自形は,C軸方向に伸びた単斜板状.葉片状
・ロゼット状・ブドウ状・放射状・粉状・皮膜状・塊状などの
集合体になる.
[色] 白色・灰色・淡緑色・黄緑色・緑色・青緑色など.含コバル
ト種は紅灰色ないし帯紅灰褐色になる.結晶内部で組成
変化があり,外側が含コバルト種でピンク色,根元に近い
部分が淡緑色になったものがある.
[光沢] ガラス光沢.粉状のものは土状光沢.劈開面{010}の断
面は真珠光沢.
[モース硬度] 1.5~2.5
[比重] 3.07~3.146
[劈開] {010}に完全.{100},{102}に不明瞭.
[条痕] 外観より淡い緑色.
[原産地] Teichgräber, Flacher vein, Teichräber deep adit,
Kippenhain mine, Schreckenberg, Frohnau, Annaberg-
Buchholz, Erzgebirgskreis, Saxony, Germany.
[名称] 原産地の Annaberg-Buchholz, Erzgebirgskreis, Saxony,
Germany.に因む.
燐酸塩鉱物.藍鉄鉱(Vivianite)グループ.
アルモヒドロカルサイトの次はニッケル華にしました.ニッケル(Ni)の含水砒酸塩鉱物です.紅砒ニッケル鉱やゲルスドルフ鉱などの砒素を含むニッケル硫化鉱物が分解したときに表面に出来る二次鉱物です.似た鉱物のコバルト華は立派で比較的大きな結晶があるのに,この鉱物はたいてい粉状で,結晶しても小さなものしかできないようです.
初めの写真の標本の別の空隙にあった結晶.
上の標本は数年前に入手したもので,立派な二次鉱物の結晶で有名な,
Lavrionのニッケル華です.母岩は褐色の苦灰石か菱鉄鉱で褐鉄鉱や二酸化マンガンが含まれていることもあるようです.母岩はそれらのほか,二酸化マンガンの被膜との境界付近に,褐色で針状のウォールキルデル石が伴ってくることもあるようです.二枚目の写真の白色部は方解石のようです.
こちらも同じ標本の別の空隙にあった結晶です.かなり小さいです.
産地:Cobalt area, Cobalt-Gowganda region, Timiscaming district, Ontalio,
Canada.(非売品)
4枚目の写真は,輝コバルト鉱やニッケルスクテルド鉱,紅砒ニッケル鉱,ラムメルスベルグ鉱などの塊状鉱石で有名なCobalt areaのニッケル華です.標本の表面にうっすら皮膜状に集合している標本なのですが,一部に微細な結晶がありました.
以下,国産の標本です.以前に佐賀県唐津市厳木鉱山のニッケル華を撮影してのですが,出来栄えに納得がいかず,再度顕微鏡撮影しました.
産地:佐賀県唐津市厳木町笹原 厳木鉱山新坑鉱床北東露頭.(非売品)
以前にも触れた厳木鉱山のニッケル華です.佐賀県の中央部から少し西に入った厳木町に,ポツンとマンガン鉱山がありました.北の方に佐礼山や北東に1000m超の天山などが聳える地です.
学生の頃に2度訪問しました.母岩はばら輝石やテフロ橄欖石からなる堅い石で,割れ目がたくさん入っていて,そこに褐色のネオトス石が入っていて,思わないところで,バシバシ割れる成形の難儀な石です.
母岩のばら輝石中にルーペサイズの紅砒ニッケル鉱がかなりたくさん入っていて,八面体のゲルスドルフ鉱も入っていました.ほかに似た質感と色の輝コバルト鉱が入っていて,判別に難儀しました.
ニッケル華はこの手の鉱石に入っていて,多くは皮膜状でした.一部に5枚目の写真のような放射状の結晶集合体があって,仮の名前でニッケル華としていました.6枚目の写真の上の方に色が淡くなったところがありますが,ここはXRDで分析するために試料として欠き取った跡です.
産地:長崎県西海市大瀬戸町雪ノ浦 雪ノ浦海岸.(非売品)
こちらも学生の頃にサンプリングした石です.海岸に「長崎ヒスイ」と呼ばれる,濃い緑色の炭酸塩岩があって,これの割れ目に皮膜状をなして入っていました.抹茶色に近く,分析したところニッケル華でした.下地になる母岩は苦灰石です.
産地:兵庫県養父市大屋町夏梅 夏梅鉱山.(非売品)
10年くらい前にサンプリングした標本です.氷ノ山の東に連なる平たい山地があって,そこに関宮超塩基性岩体が分布しています.氷ノ山自体は橄欖石を含む安山岩で,直下の登山口付近と夏梅鉱山の入口付近に,三郡帯の結晶片岩も出ている,面白いところです.
鉱山は超塩基性岩中に胚胎する正マグマ性鉱床で,もともとは銅山として開発されたようです.戦時中前後に隣の大屋鉱山と合わせてニッケル鉱山として操業されたとのこと.
標本は蛇紋岩の表面および裂罅の隙間にあった,ブドウ状のニッケル華です.母岩は著しく風化してボロボロになっていましたが,なんとか母岩付きが得られました.
多くは9枚目のような粉状のニッケル華で,少し触れるとポロポロと崩れていきます.源鉱物の紅砒ニッケル鉱の団塊の表面にできたものは,しっかりしている傾向にあるのですが,紅砒ニッケル鉱を得るために多くが剥がしとられて残っていないことが多いようです.