研磨石
いくつかの研磨した石243
福井県三方上中郡若狭町藤井串小川 藤井鉱山の層状炭マンを表裏を研磨しました.褐色部にパイロクロアイトを伴っていて,研磨したうえ顕微鏡下ではどう見えるのかを検証するために磨り始めました.
上の石は10年~11年くらい前に上流で堰堤工事しているときに訪問した際にサンプリングした標本の一部です.標本に採るために成形したときに出た木っ端で,裏面は黒色の二酸化マンガンで覆われていました.研磨のあとで,パックに入れて保存しているのですが,石が三角形に近く,擦れて入らないため裏面も研磨して結果的に2面研磨になりました。
(研磨) 肉眼的に石英の混入の無い炭マンでしたので,軟らかいと思って一気に摺り上げたところ,予想以上に早く磨りあがりました.裏面は少し磨ると灰黒色のレンズが出てきて,磨っていくうちにレンズが小さくなってきたので,早めに切り上げました.両面とも仕上げは青砥でしました.
(以下,顕微鏡下での観察です.)
茶褐色部がパイロクロアイトと思われるのですが,すでに酸化が始まっているらしく,黒色の染み状になっていました.パイロクロアイトは三方晶系の鉱物で自形があれば六角板状になる鉱物です.ただし新鮮なときは淡紅色だったのが,徐々に酸化してファイトクネヒト鉱になり,最終的にはエヌスート鉱(横須賀石)に変わってしまうそうです.切った面とは別にハンマーで欠いた部分も作って,断口面と合わせて観察したところ,4枚目の中央を上下に切るやや粒の粗い菱マンガン鉱脈中に長方形のような輪郭をした褐色の鉱物があり,これがどうやらパイロクロアイトのようでした.断口面に六角形に近い輪郭の抜けたような跡があって,ここのものは小さいながらも結晶していることに気づきました.少し風化した面についている菱マンガン鉱に伴われる褐色部は,すでに酸化が始まっていて部分的にファイトクネヒト鉱に変質しているように見えました.
パイロクロアイトを含む褐色部の拡大です.白色っぽい部分は菱マンガン鉱からなる部分です.集合している部分は粒が細かく,菱マンガン鉱に近い部分がやや粗粒になっていました.
肉眼的には結構大きな集合で,ただの二酸化マンガンの染みか何かと思っていましたが,磁石が引き寄せられヤコブス鉱であることが分かりました.若干緑色味がかっていて,一部に結晶面らしきところも見られました.熱変成の低い層状マンガン鉱床では,黒色か灰色味がかった微細な粒が集合した脈状として産することが多いですが,濃集すると磐城鉱(最近Jacobsite-Qになった)のように緑色味がかかる例(和歌山県田辺市玉谷鉱山)があって,頭に入っていました.結晶の集合体は左右0,9mmくらいあります.
2枚目の写真の右下当たりに濃集している部分の拡大です.当初は緑色の重晶石か,微細な閃マンガン鉱の集合で灰緑色を呈するものと思っていたのですが,顕微鏡を覗いて緑マンガン鉱であることが分かりました.磨った時点ではかなり緑色味の強い集合で目立っていましたが,裏面を磨り終わったころ(すぐ磨るつもりでしたが,裏面を磨るのに1か月くらい経ってしまいました)には黒変していて,改めて磨ったところ少しだけ鮮やかな色が戻ってきてくれました.周りの黒色部はヤコブス鉱.淡褐色―黄褐色の粗い粒は菱マンガン鉱です.
こちらは裏面です.淡褐色―白色粗粒の菱マンガン鉱中にレンズをなしています.写真中央右くらいに粒の粗いところがあり,拡大してみました.
黒色―灰黒色に見えた部分は磁性もあり,ヤコブス鉱でした.結構強く磁石が引き寄せられ,濃集すると磁力も強くなるようです.顕微鏡で最大まで拡大したところ,粒の大きなところは結晶質でした.
さらにカメラのズームを使用して拡大したところ,八面体をしているらしく,一部に三角形の結晶面が観察できました(中央右).