顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真113
―イネス石―
産地:静岡県下田市蓮台寺 河津鉱山大沢口.(非売品)
Inesite イネス石
[組成] Ca2(Mn,Fe)7[(OH)2|Si10O28]・5H2O
[結晶] 三斜晶系.自形は長板状ないし短柱状.繊維状・球状・束状・放射状な
どになる.
[色] 淡桃色・濃桃色・褐桃色・赤色・赤橙色・黄橙色.風化すると褐色~暗
褐色に変色.
[光沢] ガラス光沢~絹糸光沢.
[モース硬度] 5~6.繊維状の集合の為,打撃で破壊され難い.
[比重] 3.03~3.04
[劈開] {010}1方向に完全.{100}1方向に明瞭.
[条痕] 白色.
[原産地] Hilfe Gottes mine, 1500m SW of Hohe Koppe mountain, Oberscheld,
Dillenburg, Lahn-Dill, Giessen region, Hesse, Germany.
珪亜鉛鉱の次は,イネス石にしました.満灰沸石という名前が古い文献にありますが,沸石の種類ではないため,この名前は使用されていません.主に熱水鉱床の脈石として産することが多い鉱物で,ほかのマンガン鉱物とは産状を異にします.マンガン鉱床にも多少の報告がありますが,いずれも後から併入する脈中に入っているようで,直接堆積起源のマンガン鉱物の集合中には産しないようです.
上の標本は知人からの提供品です.もともとの大きさが漬物石サイズの大きな石で,長年置かれていたため表面が黒ずんでいました.標本サイズにするために成形し直したのが上の写真の石です.75㎜×60㎜×20㎜の箱に入るサイズに割りました.裏面はハンマーで二酸化マンガンを削り落としたのですが,多少は残ってしまいました.日光に当てると褐色に変色してしまう鉱物なので,普段は裏面についている二酸化マンガンの面を上にして置いています.
顕微鏡写真を撮るために棚から出して,ふたたび表面を掃除したうえで撮影しました.結晶の粗い部分に結晶が付いていました.
全体的にはこんな感じのイネス石です.以下は粒の粗い部分と結晶のついている拡大写真です.
一番下の写真に結晶が見えています.左端の反射している結晶は水晶.
以下は,そのほかの産地の標本です.
産地:Hale Creek mine, 5.05km SE of Pine Butte mountain, Mad River Rock,
Coastal range, Trinity county, California, USA.(非売品)
比較用に購入した海外産の標本です.チャートや砂岩中にレンズ状をなすマンガン鉱床からの標本で,褐色鱗片状のベメント石や白色板状の重晶石などを伴っています.海外のサイトで立派な当地の結晶が出ていました.多くが炭酸塩を塩酸で溶かしてエッチングしたとのことです.上の標本も汚れを取る程度には塩酸で処理しましたが,結晶があまり出てこないため途中でやめました.
拡大すると板状のイネス石が放射状集合になっていました.
産地:秋田県湯沢市院内銀山町院内鉱山.(非売品)
古い標本で購入しました.院内鉱山は古くより金銀を目的として稼業された歴史ある鉱山で,鉱石鉱物以外にイネス石も産しました.写真を撮るために表面の錆びを酸で落としたのですが,漬け過ぎると漂白されてしまうので,見極めが難しい標本でした.
標本中に結晶は入っておらず,板状の晶癖が放射状に集合した断面が観察できます.
産地:北海道余市郡赤井川村轟 轟鉱山(非売品).
轟石の原産地として有名になった鉱山です.隣接する明治鉱山とともに鉱脈型の金銀鉱床で,脈石として産したイネス石です.灰白色部は石英と菱マンガン鉱で,少量の鉄黒色亜金属光沢の閃亜鉛鉱を伴っています.
塊状に近いイネス石です.通常の産状ではこれくらいの標本が普通のようです.上の方にある白色部は菱マンガン鉱です.ほかに石英を含んでいます.
産地:静岡県伊豆市湯ヶ島 湯ヶ島鉱山湯ヶ島坑.(非売品).
もともとはトラスコット石のラベルが付いていた標本です.トラスコット石は珪灰石に水がくっついたような組成の鉱物で,伊豆半島や薩摩半島の金銀鉱床に報告されているやや珍しい鉱物です.灰桃色繊維状部がイネス石で,その隙間で母岩との境界付近で白色瘤状や微細な針状の鉱物はトラスコット石です.