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鉱物の顕微鏡写真99 ―硫砒鉄鉱—

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鉱物の顕微鏡写真99

—硫砒鉄鉱—

 

産地:中国湖南省郴州支宜章県瑶崗仙W-Sn砿田 瑶崗仙鉱山(非売品)

 

Arsenophyrite  硫砒鉄鉱(毒砂)

[組成]:FeAsS 

[結晶]:単斜晶系.菱餅状・板状・菱形柱状など.多く塊状集合.[001]面に条線が発達する.いくつかの接触双晶や貫入双晶が知られている.

[色]:銀白色.錆びにくい硫化鉱物の一つ.錆びると表面が赤色味や黄色味を帯びてくる.最終的には黒色に錆びる.

[光沢]:金属光沢.錆びると鈍くなる.

[モース硬度]:5.5~6

[比重]:6.1

[劈開]:{001}一方向に明瞭.{010}1方向不明瞭.

[条痕]:灰黒色.打撃時にニンニク臭がする.

[酸による反応]:塩酸に不溶.硝酸で分解.

ほか,コバルトを含有するものはデーナ鉱とよばれることがある.

 

 

 方鉛鉱の次は硫砒鉄鉱にしました.生成温度の高い鉱床に研修に行くとだいたいの現場で,普通に産する鉱物です.塊状のことが多いのですが,結晶すると光沢が強く,光に反射してギラギラして採集意欲をそそります.亜ヒ酸の原料となる鉱物ですが,知らない間にいろいろな現場の標本が手元に集まってしまいました.焙焼すると亜ヒ酸ができるそうですが,やったことはありません.また金の生成する温度の指標にもしているため,標本数がかなり多くなってきました.どの標本を選ぼうか悩みましたが,はじめの一つを除いてすべて国産品に頼りました.

 上の標本は硫砒鉄鉱のラベルが付いていた湖南省の硫砒鉄鉱です.当初は硫砒鉄鉱のラベルでしたが,横に直径が30㎜もある黄錫鉱の結晶が付いていたため,黄錫鉱の標本として登録しました.右上の方の条線が発達した結晶が硫砒鉄鉱です.俄かに緑色味を帯びた黄銅色の部分が黄錫鉱で,灰白色のペラっとした部分は白雲母,白色ガラス光沢は石英です.

 

以下,国産標本の顕微鏡写真です.

産地:宮崎県西臼杵郡日之影町見立 乙ヶ淵鉱山.(非売品).

 中温ー高温熱水鉱床から産した硫砒鉄鉱です.18年くらい前に訪問した際にサンプリングした標本です.レンタカーで行ったのですが,雨が降っていた以外に何も覚えていません.ほぼ硫砒鉄鉱の結晶の集合体で,少量の白色―黄白色の角閃石類を伴っています.  

 

 

 

 

産地:岐阜県山県市相戸金平 相戸鉱山.(購入品・非売品)

 結晶の面白さよりも重量感を優先して購入した標本です.75mm×60㎜×20㎜の箱にピッタリ入る大きさです.硫砒鉄鉱の結晶の集合でほかの鉱物は特に伴っていません.

 

 

 

産地:山口県岩国市二鹿 喜和田鉱山.(非売品)

 柱状の硫砒鉄鉱です.スカルン中のタングステン・錫鉱床より産しました.母岩の黒色部は灰鉄輝石および緑泥石で,白色部は灰重石です.

 

 

 

産地:山口県美祢市美東町絵堂 喜多平鉱山.(非売品)

 知人より不要になった石を纏めて送ってもらった時に入っていた,当地の石灰岩を塩酸で処理していたら出てきた硫砒鉄鉱です.三角形の結晶面がキラキラするイイ標本になりましたが,サイズが小さいです.共存鉱物は石灰岩を構成する方解石以外に石英が少しありましたが,肉眼的に判別できるような鉱物はこの3種類でした.

 

産地:大阪府豊能郡豊能町保谷 桐山鉱山.(非売品)

 以前にも研磨石のほうで紹介しました桐山鉱山の硫砒鉄鉱です.標本中に硫砒鉄鉱を切った標本が案外無くて,転載しました.黄銅色は黄銅鉱,赤褐色―赤黒色は閃亜鉛鉱.そのほかの銀白色部が硫砒鉄鉱です.緑色部は緑泥石類を含むと思われる石英です.

 

 

産地:大分県豊後大野市緒方町尾平鉱山大蔵坑.(非売品)

 柱状結晶で有名な尾平鉱山の硫砒鉄鉱です.標本は小さいものですが,柱状の結晶と条線が確認できました.

 

産地:滋賀県東近江市甲津畑町御池鉱山.(非売品)

 鈴鹿山脈の中央辺りに位置する鉱山地帯より産した硫砒鉄鉱です.明治の終わりごろより近代開発された鉱山の一つで,甲津畑の在所から1000mを越える峠を越えなければならず,ヤマビルも多いため未だに行けていない現場です.この標本は訪問した方より頂戴した標本です.母岩は石英です.

 

産地:鳥取県鳥取市国府町上地 成器鉱山.(非売品)

 7年くらい前に訪問してサンプリングした標本です.古くは金を採鉱した鉱山とのことでした.母岩は石英脈で黄鉄鉱や方鉛鉱・閃亜鉛鉱などを伴っていました.

 

産地:兵庫県丹波篠山市福住 福住鉱山.(非売品)

 過去何度か登場した福住鉱山の硫砒鉄鉱です.もともとはブラウン鉱を主要鉱石とする丹波帯堆積岩中に胚胎する層状マンガン鉱床で,篠山線を延長して鉱石搬出に当たった大きな鉱山です.鉱体の周辺部に黒鉛盤があってその中の石英脈に含まれていた硫砒鉄鉱です.あとから観察して,結晶の根元にある石英に染まるようにして入っていた黄色の繊維状はカーフォル石でした.カーフォル石を含む石を一面研磨した時にもカーフォル石を含む石英脈に硫砒鉄鉱の粒が含まれていました.どちらも熱水起源のようです.

 

産地:岐阜県中津川市蛭川田原区 林石材石切場.(非売品)

 最後は花崗岩質岩中の晶洞型ペグマタイトより産した硫砒鉄鉱です.硫砒鉄鉱の産状としてはかなり特殊なほうだと思います.近くに石英脈があったりすると鉱脈の方に入りそうですが,母岩の白色部は曹長石です.灰白色―灰色ガラス光沢に見える部分は石英では無く,ホタル石でした.この標本を含む同じ石切場のサンプルに長石に伴う灰重石(これは紫色を呈する),粉末状緑泥石に伴う安四面銅鉱・黄銅鉱などがありました.


 

 


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