鉱物の顕微鏡写真89
―ゲージ石―
産地:徳島県那賀郡那賀町沢谷釜ヶ谷 土須鉱山Ⅲ鉱体(非売品)
Gageite ゲージ石(ゲイジ石)
[組成]:Mn21[(OH)20|O3|(Si4O12)2]
[結晶]:単斜晶系・三斜晶系.針状結晶,放射状集合体や繊維状.
[色]:白色・灰白色・淡黄色・灰褐色・淡紅色・桃色・茶褐色・濃褐色・赤褐色.
[光沢]:ガラス光沢~亜ガラス光沢.
[モース硬度]:3
[比重]:3.6
[劈開]:{110},一方向に明瞭.
[条痕]:白色.
[原産地]:Franklin, Sussex county,New Jersey,USA.
久々の顕微鏡写真です.海外産の標本を探したのですが,感じのよさそうな標本が無く,今回は国産の標本を使用しました.
かつては土須石と呼ばれたことがあって,それを目的に12年くらい前に土須鉱山に訪問しました.四国は徳島県の木沢村(当時).土須峠という標高差のかなりある峠の南側の県道沿いに位置するマンガン鉱床です.
吉野川市の高越鉱山に行ったあとに,国道193号を南下した.経ノ坂峠を越えると,正面に更に標高の高い土須峠が山並の奥に控えていた.上分の市街から峠までは片道1時間くらいを要した.標高差約900m.土須峠の隧道を越えると3つ目くらいのカーブにある沢に入口の崩れた坑口があった.県道の脇なので,鉱石らしいものはほぼ無く,炭マンらしい鉱石を2~3サンプリングした覚えがあります.その中にアズキ色炭マンがあって,永らくハウスマン鉱のラベルが付いていました.最近になって,ハウスマン鉱とつけていた標本中にゲージ石が入っていて,ラベルを書き換えました.写真はその時の標本です.
もともとゲージ石という鉱物はあまりなじみが無く,いろいろ人伝に伺ったりしてようやくその存在に気付くことができました.
通常塊状のことが多く,繊維状になったり,肉眼的に判別できるものは少ない傾向にあるようです.ハウスマン鉱やアレガニー石・菱マンガン鉱・ヤコブス鉱といった高品位のマンガン鉱石中に産し,共存するハウスマン鉱より色が黒っぽく,見た目,光沢の無い黒いレンズがあったら疑ってみるようにしています.周囲にやや結晶の粗い菱マンガン鉱の脈で切っていたりすると,脈の中に褐色の繊維状の集合体が出たら,当たりのようです.粒の細かいものは余り光沢の無い黒色―黒褐色の塊状に見えるのですが,粗くなると,石綿に着色したような感じになります.
(以下は,本邦産ゲージ石の標本の顕微鏡写真です.)
産地:三重県度会郡度会町栗原 栗原鉱山(M・T氏からの恵与品.非売品)
ゲージ石の判定するのに勉強用として恵与して戴いた標本です.微細な白色繊維状のサセックス石を伴っているとか.下の方の脈は菱マンガン鉱.表面がやや錆びていますが,繊維状の部分がゲージ石です.
産地:岐阜県本巣市根尾水鳥 鶴巻鉱山(M・T氏より提供品,非売品)
2枚目の写真の標本と同じ方より提供して戴いた標本です.見た目が全体的に真っ黒で,光沢も鈍く鉱石を切っている菱マンガン鉱の脈だけが判るような石でした.ルーペで確認すると黒色の鈍い光沢の部分全てがゲイジ石でした.顕微鏡で拡大すると繊維状が良く観察できました.この標本中にはほかにハウスマン鉱やヤコブス鉱などを伴っています.
産地:滋賀県長浜市木之本町金居原土倉谷 土倉鉱山(購入品・非売品)
美濃帯の堆積岩中に胚胎する含銅硫化鉄鉱床に伴われる?マンガン鉱床の標本です.もともと含銅硫化鉄鉱床で銅を稼業した鉱山ですが,マンガンも産したようで,ズリの中に菱マンガン鉱やカリオピライトなどのマンガン鉱物を含む石がちらほら見られました.この標本も見た目では黒い上に光沢が無いように見える標本です.母岩を切る菱マンガン鉱の脈に沿って暗褐色繊維状のゲージ石がたくさん含まれていました.白色の脈は菱マンガン鉱.
産地:静岡県湖西市大知波 大知波鉱山.(購入品・非売品)
購入品です.購入したのですが購入後しばらくどの部分がゲージ石か判りませんでした.標本の裏面に裂罅に沿って白色繊維状のサセックス石が肉眼サイズでへばりついていて,ラベルをこちらの名前にした方がいいかもしれない,という石でした.黒色部に沿うあるいは切る,やや目の粗い菱マンガン鉱を見るようになって,この標本もようやくゲージ石の存在が判りました.上の写真の通りかなり良品です.繊維の大きさは約2㎜あり,はじめは角閃石類と思っていました.後から考えると角閃石は低珪酸の石には来ない.古いラベルの裏側に褐色の角閃石様の部分とあった.表面に書いておいてくれたらもっと早くその存在に気付いたのに...
脈を構成する鉱物は菱マンガン鉱ですが,短波紫外線灯下で赤く蛍光する部分があったので,一部にマンガン方解石があるようです.
産地:京都府京都市右京区京北下弓削町狭間谷 弓山鉱山狭間谷鉱床(非売品)
15年くらい前にサンプリングした標本です.はじめはヤコブス鉱とハウスマン鉱のラベルを付けていました.最近になって高品位鉱中に色と光沢の異なるレンズ状の部分があることに気づいて,もしかしたらサセクス石が入っているかも,と勘繰って顕微鏡下で観察していたところゲージ石が入っていました.ゲージ石の入っているレンズ以外にもほかのレンズがあり,こちらにサセクス石が入っていました.ゲージ石は最後の写真の赤褐色―茶褐色繊維状の部分です.周りの淡紅色―淡褐色は菱マンガン鉱.周囲のあずき色~褐色部はアレガニー石などの珪酸塩鉱物の集合です.