鉱物の顕微鏡写真58
―緑マンガン鉱―
産地:長野県上伊那郡辰野町浜横川鉱山(非売品).母岩のサイズ71㎜×50㎜×32㎜.
Manganosite 緑マンガン鉱
[組成]: MnO
[結晶系]:立方晶系
[色]:鮮緑色・濃緑色.空気中でただちに黒変するものがある.
[晶癖]:結晶は八面体.多く皮膜状・皮状.
[光沢]:ガラス光沢.黒変したものは鈍くなる.
[モース硬度]:5.5~6
[比重]:5.18
[劈開]:[001],[010],[100]. 三方向に完全.
[条痕]:褐色・褐黒色.
採集してから確実に色が悪くなったり,消えてしまう鉱物の代表的な鉱物です.海外産の標本をいろいろ探してみましたが,いずれもFrancklin産の標本が掲載されていて,売り物としての標本が殆ど見当たりませんでした.今回は国産の標本を中心に顕微鏡写真を撮ってみました.
熱変成を受けた層状マンガン鉱床や,未変成のマンガン鉱床からもよく見かける鉱物です.多くが皮膜状になっていて,品質によって帰宅したころには黒変しているという難儀な鉱物です.周囲が菱マンガン鉱だけなら1週間くらいは色を保持していますが,近くにパイロクロアイトやそれから変質したファイトクネヒト鉱などを伴っていると,はるかに黒変は早いようです.
黒変した緑マンガン鉱に過酸化水素で表面を洗うと,多少は色が戻ってくる感がありますが,やりすぎると周囲が漂白されてしまって,緑マンガン鉱の黒変してしまったものだけが浮いて残り,保存の難しい鉱物です.
ほかの方法に表面を被覆するようなクリアラッカーやマニキュアなどで一時的に表面に膜を作るというのもありますが,当方ではあまりうまくいっておらず,標本として残せていません.
究極的な方法としてはアクリル樹脂の中に封入するという手があり,球数があるときはいいですが,封入する装置も手元にないので,試せていません.過去に知人に提供したサンプルが,アクリルに封入されて戻ってきたことがあり,これは標本にしています.
比較的高品位の金属マンガン鉱石中に含まれていて,菱マンガン鉱・ヤコブス鉱・ハウスマン鉱・パイロクロアイトなどを含む鉱石に多い.珪酸分に富む鉱物の集合体の中ではほとんど出ませんが,角礫状やレンズ状のハウスマン鉱などに伴われることは多々ありました.
また経験則かもしれませんが,水中にある高品位鉱石からよく緑マンガン鉱を見かけました.
(以下,顕微鏡下での撮影.)
一枚目の写真の緑マンガン鉱の拡大写真です.粒状になった鮮やかな緑色部が緑マンガン鉱です.母岩は菱マンガン鉱やアレガニー石などの集合です.
上の写真の標本のほかの部位に付いている緑マンガン鉱です.こちらも粒状をなしています.この標本は知人より提供して戴いたもので,採集してからすでに20年以上経過しているとのことです.結晶していると色は永持ちするようです.
産地:京都府亀岡市薭田野町佐伯 高村鉱山産.(非売品). 1993年頃に筆者が採集した標本です.初めて鉱物採集をしたところで,20年以上経ってから標本を整理していると出てきました.未だに鮮やかな緑色を残しています.
4枚目の写真の拡大です.
更に拡大したものです.鮮やかな緑色を呈しています.標本を整理した時に出てきて,写真を撮るために少し過酸化水素で処理しています.
産地:京都府南丹市美山町向山 三平旧坑 産.(非売品). 2005年頃の採集品です.由良川の南岸に聳え立つ急斜面の尾根にある旧坑で,この時以来訪問していません.母岩はアレガニー石と菱マンガン鉱に少量のハウスマン鉱を伴っています.
産地:京都府南丹市美山町向山 向山栗谷鉱山由利山鉱床 産.(非売品).こちらは知人よりお土産として頂戴した標本です.母岩は塊状チャート中に含まれる金属マンガンのレンズです.アレガニー石やヤコブス鉱を含んだ石です.
以下は現在,色が無くなってしまい,今はパソコンのデータだけになった標本の写真です.
産地:京都府南丹市美山町原 宮島鉱山産.ガラスと呼ばれる低品位マンガン鉱石のレンズに入った緑マンガン鉱です.すでに黒変していまいました.
産地:京都府南丹市美山町深見 深見鉱山産.こちらも黒変して久しいです.母岩はパイロクロアイト(これもファイトクネヒト鉱に変質していると思われる)と菱マンガン鉱・パイロクスマンガン石からなっています.色の鮮やかな標本でしたが,気付いた時には黒変していました.
産地:京都府南丹市日吉町生畑上稗生 生畑鉱山.当ブログで過去に紹介した標本です.この標本も緑マンガン鉱の部分だけ黒変してしまいました.
母岩は菱マンガン鉱に褐色のカリオピライトを伴っています.