いくつかの研磨した石116
兵庫県篠山市遠方奥山 サカラ谷旧坑のハウスマン鉱を一面研磨してみました.当地は草山温泉の東,三郡峠の南にある層状マンガン鉱床です.丹波篠山近辺の山行記録中に,「何を掘ったのか分からないが,尾根筋に幾つも穴が開いている」というような記述があり,数年前に多紀連山に行った帰りに寄ったときにサンプリングしました.草山温泉の周辺には草山鉱山・遠方鉱山・三申鉱山・高田鉱山の4か所が日本のマンガン鉱床補遺後篇に記述があり,そのうち草山鉱山は他の文献で存在が知られるようになりました.遠方鉱山は二酸化マンガンのみで,サカラ谷旧坑は炭マンも出ているため,ほかの三申鉱山および高田鉱山のどちらかになると思われますが,今のところどちらに当たるか判りませんので,鉱山のある谷の名前を冠して「~旧坑」としました.鉱山は東にある尾根に貯鉱らしき鉱石溜まりがあり,滑車などの残骸がありました.尾根を境界にして東は京都府,西は兵庫県で,鉱石は京都府側から搬出されたようです.大切坑と思われる大きな坑道のある谷は兵庫県側の「サカラ谷」にあり,その谷の左岸も坑道があるか調べに行きましたが,発見できませんでした.研磨する石は初めて訪問した時にサンプリングしたハウスマン鉱からなるマンガン鉱石です.兵庫丹波地域のマンガン鉱床からハウスマン鉱を産する場所はあまり記憶に無く,当地だけかもしれません.ハウスマン鉱を含む石は上の1サンプルしか残していなかったので,裏面の二酸化マンガンに覆われた面を一面研磨してみました.
(研磨)ハンマーによる打撃で割れた面を観察するとハウスマン鉱にばら輝石(orパイロクスマンガン石)とテフロ橄欖石がまばらに入っていました.硬いのか軟らかいのか判断できず,とりあえず磨ってみることにしました.表面の二酸化マンガンは随分と風化が進んでいるらしく,磨り始めてからはしばらく,黒色の粉末がでました.ハウスマン鉱から変わった二酸化マンガンの鉱物は横須賀石が多いそうで,この粉末にも含まれているかもしれません.しばらく磨っていると,内部よりばら輝石(orパイロクスマンガン石)が顔を出しました.ばら輝石(orパイロクスマンガン石)の周りに石榴石のようなオレンジ色が入っていることに気づきました.ハウスマン鉱と共存しているように見えましたが,途中でルーペで確認するとハウスマン鉱と石榴石との境界にテフロ橄欖石が介在していました.ある程度まで磨って平滑になったのを確認してから,青砥で仕上げをしました.基本的に金属マンガンの鉱物が多いので比較的早く光沢が出てくれました.
(以下 拡大写真)
思ったよりカラフルな石になった.赤―桃色はばら輝石orパイロクスマンガン石で,黒色は二酸化マンガンの染み,灰緑色はテフロ橄欖石,オレンジ色が石榴石です.
レンズ状に挟まれているハウスマン鉱の部分です.「こういうハウスマン鉱にはリューコフェニス石が入っているかも」と指摘してくれた知人がいましたが,分析機器に頼るほかなく,この石は分析していないのでリューコフェニス石の存在は判りません.灰緑色部はテフロ橄欖石.桃色はばら輝石orパイロクスマンガン石.
ハウスマン鉱と二酸化マンガンの境界付近の拡大写真です.上の黒い部分が赤褐色のハウスマン鉱の方まで入り込んでいるのが確認でしますので,ハウスマン鉱から変質したものと思われます.
テフロ橄欖石とハウスマン鉱との境界付近.
テフロ橄欖石の塊状の部分の拡大写真です.あずき色部はアレガニー石.黒色は二酸化マンガン.
当地からは,石墨(あるいは非晶質炭素物質)・黄鉄鉱・石英・二酸化マンガンの鉱物・水マンガン鉱(おそらくパイロリュース鉱に変質)・ハウスマン鉱・菱マンガン鉱・テフロ橄欖石・満礬石榴石?・アレガニー石・ばら輝石orパイロクスマンガン石・ネオトス石などを確認しました.