銅鉱物
黄銅鉱(Chalcopyrite)
兵庫県川辺郡猪名川町槻並 柿ノ木鉱山
Locality: Kakinoki Cu-Ag mine, Southern of Sannouzan mountain, Tsukunami,
Inagawa town, Kawabe district, Settsu old county, Hyogo prefecture, Kinki region, Japan.
(非売品)
Chalcopyrite
黄銅鉱
CuFeS2 正方晶系
顕微鏡写真シリーズで紹介したかもしれませんが,柿ノ木鉱山の黄銅鉱です.以前からブログ用などに使用する画像を作るために,手持ちの標本を撮影して溜めていました.画像を整理していたところ,今一つ気に入らず再度標本を出して,掃除した上で撮影しました.
今回は表面と裏面も撮影しました.画像の上の方に地名があるのは,ラベルと石が入れ替わったりするのを防ぐために,削りやすい部分を選んで,サンドペーパーで少し削り,平坦になったところに修正液を塗った上で,油性マーカーで産地名を記入しています.鉱物系の図鑑等で採集後の標本作りの項を見ると「日付と通し番号を記入する」とよくありました.これは管理がしっかりされている方用で野帳や目録を観れば一目瞭然という感じですが,筆者のように管理がズボラな者は,産地名の方がラベルを失ったときに,これの方が便利と思ってやっています.裏面の産地名を観ればあとは何とかなる,と個人的には思っています.
鉱物のコレクションをある程度までやると,本邦産の鉱物種,1200種くらい報告されているのですが,これのうち何種類もっている~なんてよく耳にする話です.ちなみに筆者は898種まで蒐めましたが,その後は散逸しました.
ある程度蒐めると次は何にしようかな~となって人によっては稀元素のほうに行ったり,結晶ばかりの方に行く人もいました.
筆者はそういうのではなく,冶金の方や鉱山の沿革,歴史の方に歩み寄って行っています.現在は行き先の鉱山の主要鉱石や生産量が気になったり,どういうのが高品位鉱だったのかなどを調べています.
各地銅山に於いて最近まで稼業していた山は別として,終戦までやっていたがその後放棄されたような,人があまり行かない山の主要鉱石として普通にありそうなのが,上記の黄銅鉱で実際この鉱物を主要鉱石にしていた鉱山は多いはず.判別は簡単な方なのでしばらく前まで頻繁に探していました.
比較的有名な銅山の標本はけっこうな量が出回っていて,似たり寄ったりでした.割と有名なのに主要鉱石となりうる黄銅鉱の標本が殆ど見られない産地のものもありました.
上の柿ノ木鉱山の黄銅鉱もそうで,銅の二次鉱物で割りと有名ですが,初成の標本はほとんど見当たりませんでした.上の標本は25年くらい前に筆者が鉱山のズリの一番上にある石段の下付近でサンプリングした標本です.標本のあったところはカラミが見られ,その中に少し重みのある褐鉄鉱の錆びを伴い,かつ孔雀石の少し吹いた石が,少量見られました.
その一つをサンプリングしたのですが,しばらく標本箱の中に放置状態でした.それを掃除した上で撮影しました.
柿ノ木鉱山の沿革を明治期~大正期にかけて調べてみたのですが,旧幕時代の記録はほとんど見当たりませんでした.近傍にある多田鉱山のものばかりで,日本鉱業誌に少し触れられている程度でした.
開発は多田銀山と同様かそれ以前と思われる.文献に出てくるのは明治18年ごろの記録で,当時の経営者の名前と借区坪数くらいでした.坑夫2名,手子3名,揚水夫3名,洗鉱夫2名の使役を以って操業とありました.
それから大正期~昭和8年ごろまで追跡できました.
標本は黄銅色金属光沢部が黄銅鉱で,茶褐色皮膜状が水酸化鉄による被膜.白色~灰白色は母岩の部分.母岩中に微細な鉄黒色粒状があって,これが閃亜鉛鉱.緑色皮膜状部が孔雀石です.