顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真193
―自 然 蒼 鉛-
産地:Salsigne mine, Northern of Salsigne, Carcassonne, Aude occitanie, France.(非売品).鉱山名はサルシーニュ鉱山と読むらしい.
Bismuth(Native Bismuth) 自然蒼鉛(自然ビスマス)
[組成] Bi
[結晶・形態] 三方晶系.人工物に立派な結晶があるが,片状や粒状
のことが多い.樹枝状・葉片状・塊状集合になる.平行連
晶になることがある.
[色] 帯紅銀白色・帯紅錫白色・銀白色など.錆びると黄色味
や虹色・黄褐色を帯び,最後に黝青色になって黒色に近
くなる.
[光沢] 金属光沢.不透明.錆びると光沢は徐々に鈍くなる.
[モース硬度] 2~2.5. 硬度が低いために研磨すると研磨痕が残り易
い.
[比重] 9.7~9.83
[劈開] {0001}に1方向に完全.{1011}に3方向に良好.
{1014}に1方向に乏しい.
[条痕] 錫白色・銀白色など.
[原産地] Schneeberg, Erzgebirgskreis, Saxony, Germany.
[名称] もともとはドイツ語の「白い塊」の意である
「Weisse masse」がのちに「Wismuth」となり,現在の
「Bismuth」に変化した.
[産状] 火山底性鉱床・熱水鉱床・接触交代鉱床・ペグマタイトな
ど.
ほか,反磁性.塩酸に不溶(錆びることはあるらしい),硝酸に可溶など.
今月,二度目の顕微鏡写真シリーズです.今回は自然蒼鉛にしました.
元素鉱物のなかで,筆者があまり興味のない鉱物なため,顕微鏡画像はおろか接写の画像もありませんでした.海外産の標本をトップに持ってくるのに,標本を探したところ,上記のような理由によって,ボリビアの砂鉱から出たナゲットのような塊状のものしか出てきませんでした.
トップに持ってきた標本は今年の京都ショーで買い求めた標本です.原産地の標本か,その周囲で出た自然蒼鉛の標本を探しましたが,あったのが上の標本でした.
購入してからさっそく地図で産地の場所を調べました.ローマ時代より知られたかなり古い金銀銅鉱の鉱山らしいとかで,その後しばらく忘れ去られ,1892年になってから当地より金が再発見されたとか.鉱山自体は2004年ごろまで操業されていたらしい.
母岩は一部に白色ないし灰白色亜ガラス光沢を呈する方解石を伴う,やや粗粒の石英脈です.石英脈のやや目の細かくなった部分に帯紅銀白色ないし,表面がやや錆びて黄色味や青色味を帯びた色を呈する粒状をなしています.
ほかにいくつか金属鉱物を伴っていて,暗い銀白色の硫砒鉄鉱や微粒の黄銅色金属光沢を呈する黄銅鉱などを含んでいました.
産地:Rio Vilace(Vilaque river). La Pas district, Blivia.(非売品).
前述通りの砂鉱中の塊状の自然蒼鉛です.ただの漂砂鉱床だと思っていたのですが,モレーヌ氷河に由来する砂鉱より分離されたものだという.表面はかなり摩耗していて,購入当初は表面が酸化して真っ黒でした.表面を普通の束子で擦っていると少し表面の酸化被膜が取れて内部の色が少し見えてきました.ヤマノイモのような形状の大きな塊状で,箱に入らないため,上の方は劈開に沿って半分に割りました.新鮮な面が出て,内部は俄かに赤色を帯びた銀白色でした.
以下は国産品です.
自然蒼鉛の標本は教養のために持っているにすぎず,所有鉱物標本リストに近畿地方の富国鉱山・明延鉱山・生野鉱山と九州の小峠のものがあって,富国鉱山のものと生野鉱山の標本が出てきました.ペグマタイトから出た小峠の自然蒼鉛もあるはずなのですが,出てきませんでした.
産地:兵庫県朝来市生野町生野鉱山/Ikuno mine, Ikuno, Asago city, Tazima old county, Hyogo prefecture, Honshu island, Japan.(非売品).
高校生ころの採集品です.顕微鏡写真を撮るにあたって表面を掃除しました.自然蒼鉛を含む母岩は,妙に黒っぽい緻密な石英で,これが切る母岩は褐色の水酸化鉄による染みを伴った石です.やや蝋石化した生野層群の凝灰岩のような岩石で,石英から分泌するような脈が裂罅に沿って併入していた.この部分は国東半島に出る木蛋白石のような質感を持った,キャラメル色を呈する蛋白石のような脈で,自然蒼鉛を含む黒っぽい緻密な石英脈の盤際を充填するものと,少し離れたところの空隙をレンズ状に充填するものも含まれていました.
灰色ないし黒色でやや緻密な石英脈の断面は,金銀山でよく見る銀黒状の集合で,微粒な硫化物を含み灰黒色を呈するものと,それらが全く入っていないのか白っぽい脈がサンドイッチ状になっていました.
上の画像に自然蒼鉛は灰黒色の脈ではなく,白っぽい脈に挟まっていました.脈に沿って割ったときに,妙にニンニク臭がしました.脈の一部に硫砒鉄鉱を伴っているので,これの打撃臭かと思っていたところ,母岩の端の方に球状集合の銀白色の鉱物があって,後に自然砒であることが判りました.この部分は現在は錆びて真っ黒になっています.上の画像の自然蒼鉛のサイズは右下のもので左右に1㎜前後しかありません.
産地:京都府福知山市宮垣 富国鉱山/Fukoku Ag-Cu-Bi mine, Fukokuyama mountain, Miyagaki, Fukuchiyama city, Tanba old county, Kyoto prefecture, Honshu island, Japan.(非売品).
これも随分前にサンプリングした標本です.母岩を成形していたところ一番いい部分が飛んでしまったため,この石はサムネイルに入れています.あまり錆びていない自然蒼鉛で,上下約3㎜あります.
富国鉱山はもともと宮垣銀銅山と呼ばれていた鉱山で,旧幕時代に福知山藩によって開発されたと云い,北にある富国山の南尾根の西側にあって,東側に田和銀銅山がありました.坑口は柵があって外から眺めるだけの坑道で,柵の外からフラッシュを焚けばなんとか内部がうかがえる感じでした.田和銀銅山は品位が開発当初から悪かったらしく,林道沿いに精錬所の跡と立派な石垣と多量のカラミ(鉱滓)だけが残っています.上の方に木馬道の跡のような道が尾根上に上がっていっていて,坑口は谷筋ではなく,尾根上にあったのかもしれません.
標本は白色で妙に粘っこい粘土を伴った粗い石英脈で,蒼鉛鉱物のついている部分は石英の粒が細かくなった部分にありました.周りについている黄色い鉱物は分解物の泡蒼鉛土だと思ってXRDで調べたことがあって,全然ピークらしいピークが無く,全体がぼやーっとしていて,粘土鉱物かアモルファスの物質のようでした.