顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真185
―ランシー鉱―
産地:Alforja mine, Alforja, Baix Camp, Terragona, Catalonia, Spain(非売品).
Ranciéite ランシー鉱
[組成] (Ca,Mn2+)Mn4+4O9・3H2O or (Ca,Mn2+)0.2(Mn4+,Mn3+)O2・0.6H2O
[結晶] 三方晶系・六方晶系?.自形結晶は板状・長板状,湾曲した
長板状・針状など.結晶は脆い.箒状・火焔状・ロゼット状・
放射状・皮膜状・皮膜状・ぶどう状・鍾乳状・塊状などの集
合になる.
[色] 暗銅赤色・鋼灰色・褐色・茶褐色・赤褐色・暗褐色・褐黒色・
灰黒色・黒色など.
[光沢] 金属光沢~亜金属光沢.塊状のものは土状光沢.
[モース硬度] 2.5~3
[比重] 3~3.20
[劈開] 無し.
[条痕] 暗褐色・暗赤褐色など.
[名称] 原産地名より.
[原産地] Le Rancié mine, Sem, Vicdessos, Foix, Ariège, Occitanie,
France.
ほか,塩酸に可溶.
ひと月ぶりの顕微鏡写真シリーズです.今回はランシー鉱にしました.今年の大阪ショーで海外産のランシー鉱の標本を入手できたからで,用意していた国産の標本を再度撮影しなおしました.
ランシー鉱は広義の二酸化マンガンの鉱物の一つで,マンガン鉱床以外に熱水鉱床や火山岩の割れ目などに産する鉱物です.一般に二酸化マンガンの鉱物はただ黒くて重いだけで,ほかに特別な晶癖が無く,完全な判定には分析機器が必要ですが,ランシー鉱は特徴的な赤黒い色と金属光沢,火焔状の集合というポイントがあって,比較的判定しやすい鉱物です.組成式の初めの鉤括弧のカルシウム(Mn)とマンガン(Mn)を前後入れ替えて,Mn>Caにすれば高根鉱です.「高根鉱」のラベルが附いた古い塊状のマンガン鉱が一つ持っていますが,褐色の褐鉄鉱が混じっている以外は真っ黒な石で,見分けできるようなものではありませんでした.
名称は原産地のLe Rancié mine.より取られたようで,フランスとスペイン国境に東西に連なるピレネー山脈の北麓にあるようでした.グーグルマップのストリートビューで「Sem」と呼ばれる谷合の村の村道の一番奥まで撮影が入っているようで,そこに現地案内板とともに坑口がしっかりと写っていました.
上の画像の標本は原産地と同じ国のものですが,北東端に近いカタローニャ地方にある Punta del Vacaro(標高866m)という山の南700mの尾根に近いところにある熱水鉱床からのものです.光沢のやや強いギラギラした繊維状の部分がランシー鉱です.赤褐色の褐鉄鉱を伴っています.
以下は国産の標本です.どういうわけかランシー鉱の産地が伊豆半島に集中していて,最後の2つを除いてすべて伊豆半島からの標本です.
産地:静岡県伊東市大崎海岸.(非売品)
交換品.凝灰岩質の母岩の割れ目にできたもので,よく分析しようと思ったものだと思う.俄かに赤色味がある黒色の被膜で,ほかに特徴のない標本です.
産地:静岡県賀茂郡河津町谷津鉱山(非売品).
交換品.以前に関東のコレクターと交換した際に入っていた標本です.俄かに赤色味のあるやや光沢の強い板状をなしています.画像は白色の石英が空隙になった部分を拡大しています.
産地:静岡県下田市中 高根鉱山(非売品).
購入品.本邦産のランシー鉱の標本のなかで最も出回っている産地の標本です.白色~乳白色半透明の水晶の晶洞の中に俄かに赤色味を帯びた褐色の鱗片状をなしています.
産地:大阪府柏原市東条町.(非売品).
恵与品.大阪府の鉱物を調べているグループの方より恵与してもらった標本です.やや風化した安山岩質の母岩の割れ目にしのぶ石状でついているもので,よく分析しようと思ったなと思う鉱物です.平たく薄い空隙があるらしく,そこに金雲母や鱗珪石が入っているそうです.
しのぶ石状の一部を拡大し撮影してみましたが,俄かに赤色を帯びている以外は黒い染みのようにしか見えなかった.
産地:高知県高岡郡佐川町斗賀野桜川(非売品).
恵与品です.どういう経緯で入手したのかはっきりとは覚えていない標本です.母岩は石灰岩で一部が石油臭がするため鳥の巣石灰岩だとおもう.その割れ目に,皮膜状をなしています.
その標本の平たい薄い空隙のようになった部分を顕微鏡で拡大しました.見た目は真っ黒の染みでしたが,拡大すると俄かに赤色味を帯びた褐黒色粉末状でした.