顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真171
―針銀鉱―
産地:韓国慶尚北道高霊郡霊水面礼里・盤城里 高霊鉱山.(非売品).
Acanthite 針銀鉱
[組成] Ag2S
[結晶] 単斜晶系.自形は[001]に沿って細長く伸長した角柱状・
針状.粒状・塊状集合などで,盤際に濃集し銀黒と呼ば
れる脈状に集合し金を伴うことが多い.177度以上の高
温で結晶した輝銀鉱の仮晶としての針銀鉱で擬立方・
擬八面体を呈する.またこれらの立体が組み合わさった
聚状をなす.
[色] 暗鉛灰色・褐黒色・黒色など.
[光沢] 金属光沢.錆びると光沢は落ちる.
[モース硬度] 2~2.5
[比重] 7.2~7.4
[劈開] 無し.
[条痕] 鉛灰色~暗鉛灰色
[原産地] Jáchymov, Karlovy vary district, Karlivy vary region,
Czech Republic.
[名称] 棘のような結晶の外観より.ギリシャ語の「棘」と表す
「akantha」より.
今回は針銀鉱にしました.銀黒を構成する鉱物で,輝銀鉱の仮晶の針銀鉱はいくつか標本を所有していました.針状の結晶が見える標本は少なく,海外産と国産合わせても,輝銀鉱の標本ばかりでした.今回は東アジアの標本で構成しました.
上の標本はほかの標本店で購入した標本で,黒く薄汚れていたので,半分に割って新鮮な面を出しました.戦前の標本でおおまかな地名しかラベルには記載がありませんでした.
Web上で検索をかけていると,数件ヒットしてその一つに昭和16年の鉱区一覧よりようやく,鉱山名が出てきました.ほかにハングルで記載のある文献が1部ありましたが,全く読めずパスしました.
ほかに和文の文献を探していると,1件ヒットして概要がようやく判りました.原文より要約すると,「高霊邑の北約1里,大伽川の上流の西岸に事務所があったという.西暦1636年ごろに発見されたという.王朝時代に大邱監理というものを置いて盛大に稼業されたそうだ.」
こんな感じであって,文章の表現が古く,カタカナ文字だったため読みづらかった.現在の位置はこの文献の位置情報とグーグルアースでだいたいの場所が分かった.現在はなにかの施設が建っているようです.
鉱石は乳白色ないし白色でやや緻密な石英中に,俄かに青色味を帯びた暗鉛灰色金属光沢の脈になった,銀黒状の標本です.一部に空隙があって,針銀鉱の針状の結晶が確認できました(2枚目の写真).
産地:中国河南省南陽市桐柏県鉄犂耙洞圍山城 破山銀砿.(非売品)
こちらは中国河南省の破山銀砿の輝銀鉱です.一部に針状の結晶も見られます.以前の顕微鏡シリーズの「自然銀」で少し触れました.古生代の変成岩の裂罅を充填した金銀鉱床とのことです.楕円形に見える集合は幅約5㎜ありました.
以下は国産品です.
産地:大分県日田市中津江鯛生野 鯛生鉱山.(非売品).
有名な鯛生鉱山の銀黒です.大正の初めくらいに産したという古い鉱石です.暗灰色―灰色でやや緻密な石英脈の盤際に帯黄白色の氷長石を伴った微細な粒状をなしています.母岩は珪化した凝灰岩でやや肉眼的な大きさの黄鉄鉱を含んでいました.また銀黒の一部に黒くなりかかったエレクトラムがへばりついていて,高品位鉱だったようです.石英脈の一部に空隙があり,中に雑銀鉱の結晶が入っていました.
産地:兵庫県朝来市生野町生野鉱山(非売品).
生野鉱山の銀黒です.多少蝋石化した母岩を切る石英脈(写真の上部)に脈状をなす針銀鉱です.
産地:兵庫県養父市大藪 養父鉱山.(非売品).
養父銀山とも称された鉱山の輝銀鉱です.学生時代に訪問して切羽で入手したという方から,小さな標本を入手しました.その後に山元も見に行きましたが,銀黒のような高品位鉱石は無く,いろいろ近くの在所の方に伺っていると,選鉱は円山川の河原でやっていたということを聞かされました.そのあと一応行ってみたものの,そういうような遺構は見つけられませんでした.上の標本はその数年後に入手した標本です.見た目は方鉛鉱優勢の重い鉱石で,珪化した凝灰岩質の角礫や円礫を含み,その際にそって妙に青っぽい針銀鉱の集合がついていました.上の写真の部分はその部分の裏に粘土脈が隣接していて,それを歯ブラシでこすり取ったところ,下からこの結晶が出てきました.