顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真165
―珪線石―
産地:三重県津市白山町山田野 白山鉱山(非売品).
Sillimanite(Fibrolite) 珪線石(フィブロライト)
[組成] Al2[O|SiO4]
[結晶] 直方晶系.自形は直方短柱状ないし長柱状.針
状・毛状など.簾状・繊維状・放射状などの集合に
なる.結晶の断面は正方形に近い.柱面に条線
が発達することがある.研磨すると,キャッツアイ
効果が出るとか.リムが珪線石で,コアが紅柱石
という結晶の出る産地のものがある.部分的に白
雲母に置換されるものや,全て白雲母に変質し
仮晶になったものがある.ほかに紫外線で青白く
蛍光する産地のものがある.
[色] 無色・白色・灰白色・灰色・暗灰色・淡黄色・灰黄
色・黄色・灰緑色・暗灰緑色・淡青色・淡褐色・赤
褐色・暗褐色など.
[光沢] ガラス光沢~絹糸光沢.結晶質のものは亜金剛
光沢~ガラス光沢.繊維状のものは絹糸光沢.
[モース硬度] 6.5~7.5.
[比重] 3.23~3.27
[劈開] {010}1方向に完全.
[条痕] 無色・白色など.
[同質異像鉱物] 紅柱石・藍晶石
[名称] Yale大学の地質学者,
Benjamin Silliman(1779-1864)に因む.
[原産地] Carnatic Coast, Tamil Nadu, India.
Chester, Middlesex county,Connecticut,USA.
[産状] 変成ペグマタイト,片麻岩,熱水変質岩,火山噴
出物,捕獲斑晶,ある種の流紋岩など.
同質三像の鉱物の藍晶石を前回に掲載しました.続きは同じ同質異像(多形)の珪線石にしました.紅柱石や藍晶石のように色彩に富む鉱物は採集対象となりやすいため,出回っている量がある程度あります.珪線石は周囲から白雲母に代わっているものがあり,色彩に乏しくあまり大きな結晶は見られないこの鉱物は,出回っている量が少ないと云う.
以前よりこれを掲載するにあたっていろいろ,標本を集めていました.前述のとおりなかなか良品が無く,野外へ赴いても撮影に耐える標本には出会いませんでした.人気が無いのか出回っている標本数は限られているため,売り立て会に出ていれば,とりあえず手を出していました.
それでも,顕微鏡写真シリーズで掲載するために,標本箱を探したところ,数箇所の標本しかありませんでした.今回は国産品を掲載します.
はじめの標本は,領家帯の花崗岩および片麻岩質岩中の変成ペグマタイトのような産状で,現場は珪長石を稼業していたそうです.もともと3倍の大きさの石でしたが,大きすぎるため,成形したところ3等分になりました.見かけのいい2つの石はすでに手元にありません.一番小さいこの石を手元に残しました.
黒色の黒雲母に挟まれる,白色ないし灰白色・乳白色粗粒の長石に伴われる灰緑色の珪線石です.はじめの写真の上部は本来は黒雲母があったのですが,風化してボロボロになりつつありましたので,掃除したところ結晶の頭が出てきました.一部は蝕像のように溶けていました.この標本にはほかに,黒雲母や白雲母に石英などを伴っています.
産地:奈良県大和郡山市山田町松尾山(非売品).
こちらは奈良の矢田丘陵にある松尾山へハイキングに行ったときに,尾根の表面に落ちていた珪線石です.随分前に奈良在住の方から,「珪線石なら矢田丘陵を歩いていたら,たまに落ちてる」とのご教示があって,それを頼りに訪問したところ,1つだけでしたがサンプルを拾うことができました.
全体に白っぽく斑状の黒雲母がぽつぽつついていて,ほかのガラス光沢の白色部は石英でした.珪線石は同じ奈良のどんでん山が有名ですが,ほとんどの部分が白雲母になっていました.こちらも白雲母になっているのかと思って,一部は研磨したところ,全体的に光沢が強く,一部だけ白雲母でした.
産地:香川県仲多度郡まんのう町長尾 猫山鉱山(非売品).
こちらは購入品です.研磨石シリーズで掲載した標本の未研磨の表面を顕微鏡撮影しました.珪線石鉱床という聞きなれないタイプの鉱床で興味がありました.領家帯の変成岩中にレンズ状の鉱体だそうで,いつかは訪問してみたい.
全体的に白っぽい岩石で,細かい黄鉄鉱や黄銅鉱粒が点在し,その母岩に白色ないし灰白色の繊維状の珪線石が入っています.
産地:福島県東白川郡古殿町竹貫 鮫川(非売品).
知人よりお土産として頂戴した転石を岩石標本として成形した標本です.石榴石珪線石角閃石片麻岩だそうで,暗緑色繊維状の角閃石,赤橙色―暗褐色の石榴石に白色―淡褐色繊維状の珪線石からなっています.成形屑の一部を研磨して,顕微鏡下で観察したところ,肉眼的な長石はほとんど入っていないようでした.
産地:京都府木津川市加茂町北下手吉水 昭和坂(非売品).
研磨石シリーズ#281より転載です.岩石観察で著名な木津川の河原にも似たような岩石が多数見られます.なんとか露頭で観察できましたが,新鮮な面ではなかったので,もう少し探してみようと思っています.俄かに黄色味を帯びた乳白色部が珪線石です.少量の黒色の電気石類や黒雲母を伴っています.
ほかに,鳥栖流紋岩中の微細な珪線石もあったのですが,探したときは行方不明で出て着次第,更新しようと思っています.