顕微鏡写真
鉱物の顕微鏡写真145
―ルドウィヒ石―
産地:福島県伊達郡川俣町小神袖山 羽山鉱山(非売品).
Ludwigite ルドウィヒ石(ルドイヒ石)
[組成] Mg2+2Fe3+[O2|BO3]
[結晶] 直方晶系.自形は直方柱状および針状.繊維状
・放射状・塊状集合になる.
[色] 灰緑色・濃緑色・緑黒色・灰黒色・黒色など.表
面に分解物が生じ赤褐色や黄褐色になるものが
ある.分解物は褐鉄鉱とのこと.
[光沢] ガラス光沢・亜ガラス光沢~絹糸光沢.
[モース硬度] 5
[比重] 3.6
[劈開] 無し.
[条痕] 緑黒色.
[酸による反応] 塩酸・硝酸・硫酸に徐々に可溶.
[名称] オーストリアの化学者,
Ernst Ludwig(1842-1915)に因む.
[原産地] Ocna de Fier(Vaskö-Moravița) mining area,
Caraş-Severin, Romania.
[産状] おもに超塩基性岩(橄欖岩・蛇紋岩)やスカルン中
より.
ひさびさの更新です.今回はルドウィヒ石にしました.和名にルドウィヒ石とルドイヒ石の2つの表記があって,筆者は前者を使用しています.後者の場合,ラベルに手書きで記入したときに,書き方によって「ルド・化石」に間違えることがあって前者の表記にしています.日本人なら先ず間違えないと思いますが,念のためこちらを使用しています.
マグネシウム(Mg)と鉄(Fe)の無水硼酸塩鉱物で,かずある硼酸塩鉱物の内この鉱物は水に溶けない硼酸塩鉱物です.組成のうち鉄(Fe)をチタン(Ti)に置換したワーウィック石は以前に紹介しました.
はじめの写真の標本はずいぶん前に購入した標本(サイズ74㎜×58㎜×25㎜)で,いつも使用している中の箱にピッタリ入る大きさです.現地へは未訪ですが,超塩基性岩(橄欖岩)中のニッケル鉱床だとか.黄色っぽい橄欖岩中に灰黒色の針状結晶が無数に入っていました.
見た目は微細な繊維状で,絹糸光沢に近く見えるのですが,結晶の粗いところを観察すると,顕微鏡下では金属光沢をしていました(一枚目の写真).
産地:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾黒谷(非売品).
こちらも超塩基性岩中のものです.飛騨山脈の焼岳(2455m)の北西にある谷で,羽山鉱山よりも地理的に近いのですが,急勾配な山のうえ,高い堰堤をいくつも越えなければならないといい,いまだにチャレンジしていません.
黒色でやや光沢が強い放射状部がルドウィヒ石です.白色部は蛇紋石系の鉱物やブルース石のような鉱物と思われる.それとは別に,ルドウィヒ石の集合の表面に,白色粉状の鉱物があって,かつてラベルに「苦土華」の名前を付けていました.蛍光X線で調べたところ粉状のブルース石でしたので,この名前は消しました.
産地:岩手県宮古市上根市(非売品).
国産品はこの3点がありました.根市のドロマイトスカルンのチップになったのがたくさんあって,その中にあったものです.小さいですが針状の晶癖が観察できます.白色の部分は苦灰石や方解石などの炭酸塩.
国産を先に紹介しましたが,以下は海外産です.
産地:Stålbo, Bergslagen district, Dalarna county, Sweden(非売品).
フルーオボライトの標本についていたルドウィヒ石です.当地はスカルン中に橄欖石を伴う黒色針状で産するようです.周りの白色繊維状がフルーオボライトで,黒色金属光沢の磁鉄鉱を伴っていました.
産地:Zlatý Kopec skarn deposit, Boží Dar(Gottesgab), Karlovy Vary district,
Karlovy Vary region, Czech(非売品).
最後はZlatý Kopecのスカルン鉱床のルドウィヒ石です.元ラベルに鉄(Fe)の一部が錫(Sn)に置換された,ハルス石(Hulsite)とそれの分解物のシェーンフリース石(Schoenfliesite MgSn4+(OH)6立方)とルドウィヒ石が3つ併記されていました.
最後の鉱物を除いたハルス石とルドウィヒ石は肉眼ではほぼ判別がつかない難物で,結晶内に両者が存在している可能性もあって,排除せずに文末に持ってきました.分解物と思われるシェーンフリース石は画像には映っていませんが,黄白色・黄色・黄橙色で繊維状のハルス石やルドウィヒ石を交代した繊維状をしています.結晶は立方体で八面体に近い形をしています.