顕微鏡写真シリーズ
鉱物の顕微鏡写真122
―普通輝石―
産地:Bidahochi Butte, Bidahochi, Hopi Buttes mining district, Navajo county,
Arizona,USA.(非売品)
Augite 普通輝石
[組成] (Ca,Na)(Mg,Fe2+,Al,Fe3+,Ti)[(Si,Al)2O6] Ca/(Mg+Fe+Ca)=0.2~0.45
[結晶] 単斜晶系.短柱状・粒状など.火山岩中の斑晶として含まれるもの
はよく分離された結晶がある.アルカリに富むものは柱面が長くなる
こともある.双晶は双晶面a {100}の接触双晶がある.これは矢羽根
状に見える.
[色] 灰緑色・帯青灰緑色・濃緑色・暗褐色・灰黒色・黒色.いわゆるチタ
ン輝石と呼ばれる普通輝石は紫色味がかかる.標本によっては母
岩からの結晶の分離が悪く,母岩の一部がこびりついて赤褐色~
褐色に見えるものや,表面がやや酸化して同様の色になっているも
のがある.
[光沢] ガラス光沢.
[モース硬度] 5.5~6
[比重] 3.19~3.56
[劈開] {110}に二方向に良好~完全.劈開の角度が約90°で交わる.
[条痕] 灰色・灰緑色.
[名称] ギリシャ語の光沢(Auge)に由来.
しばらく前から岩石を蒐るようになって,かなりの頻度で出てくるため,質は別としてかなり産状の広い鉱物です.産状はアルカリ玄武岩・アルカリ花崗岩類・安山岩・玄武岩・デイサイト・斑糲岩・超塩基性岩・火山岩中の捕獲岩などで産します.
火山岩の斑晶としてよく含まれていて,母岩が風化した現場ではころっとした粒状で出てきて,急遽斑晶探しになってしまったこともしばしばありました.
はじめの写真2枚は同じ標本のうち,写真にして写りのよさそうな結晶を選んで,顕微鏡下で撮影しましたが,どんなものでしょう.海外産の造岩鉱物を探していて,ある標本店で目に留まって購入した標本です.
産地のBidahochi Butte(標高1918m)は岩石沙漠の中の幹線道路の脇に佇む,台地状の山で,グーグルストリートビューで外観が拝めます.安山岩質の多孔質の母岩で,かなり風化した印象の石です.母岩の表面が白っぽいので,黒色系統の普通輝石は浮き出た感の強い標本でした.孔壁についている普通輝石以外の鉱物に鱗珪石と細かい雲母類がありました.
産地:Monzoni mountains, Vigo di Fassa, Trento province,
Trentino-Alto Adige, Italy.(非売品)
海外産をもう一つ.母岩があまり風化していない標本を探していた時に購入した標本です.ラベルには玄武岩中とありましたが,安山岩にかなり近いらしく,ぱっと見た感じでは安山岩中なのか,と思うくらいの母岩に入っています.斜長石の多い母岩であまり分解していないようで,斜長石の多い部分は光源の角度を調節すると劈開面で反射してキラキラして見えました.
現場はVigo de Fassa という町の東に聳えるアルプス型の山地の裾野だそうで,グーグルストリートビューで見ると,かなり風光明媚なところと云った感じでした.普通輝石の斑晶は緑色味が強く,肉眼では透輝石か?といったような感じの普通輝石です.
産地:Limbergite quarrys, 300m WWS of Limberg mountain, Sasbach am
Kaiserstuhl, Emmendingen, Freiburg region, Baden-Württemberg,
Germany.(非売品)
上の標本は以前に同シリーズのフォージャス沸石の項で紹介しました.地殻とマントルの境界付近にできると云われている,リンバーグ岩(Limbergite)と呼ばれる岩石の斑晶として含まれる普通輝石です.柱面が延びて長柱状になったチタンを多く含む普通輝石で,ラベルにもTitan-augite(チタン輝石)が含まれるという,簡易な説明書きがありました.この標本は前述のとおり,フォージャス沸石が含まれていて,ほかに少量の灰十字沸石,方解石,玉髄などが母岩の空隙に伴われています.
以下,国産品です.日本国内は火山が多いため,この手の産状はかなり多く,標本を選ぶのに難儀しました.
産地:佐賀県伊万里市東山代町 通称「西ヶ岳」.(非売品).
普通輝石の分離結晶で著名な「西ヶ岳」の普通輝石です.2002年頃に筆者が現場の沢でサンプリングした標本です.母岩からの分離が良く,結晶面に母岩の一部が,なるべくくっついていない結晶を探して,半日でこれくらいしか集まりませんでした.長さが10㎜を超えるものは稀で,割れたものなら多少はありました.母岩は沸石を含んでボロボロになった玄武岩で,新鮮な母岩はあまり見かけませんでした.
産地:熊本県阿蘇郡南阿蘇村久石 大矢野岳西の稜線.(非売品)
2001年頃に筆者がサンプリングした標本です.タクシーで南阿蘇村の羅漢岩の近くまで入って,そこから沢沿いに登って地蔵峠を目指し,大矢岳(標高1220.1m)の三角点を踏んで,次の大矢野岳(標高1236m)に向かう稜線沿いで休憩していた時に表面にパラパラ分離した結晶が落ちていたのを,どんぐり拾いの要領で拾っていました.結晶は大きいものの,角がルーズで色も悪いため,しばらく掃除もせずに放置していました.掃除して標本にしたのは最近のことです.掃除した後でようやく透輝石成分の多い緑色の普通輝石であることがわかりました.
産地:佐賀県唐津市 高島.(非売品).
こちらは購入品です.結晶はややルーズですが,右下の結晶は長さ約21㎜あって,母岩の風化した玄武岩をエッチングしたところ,こんな大きな結晶が隠れていました.
産地:新潟県柏崎市女谷市野新田.(非売品).
こちらも購入品です.ころっとした斑晶で,いくつか双晶も含まれていました.大きさはありませんが,結晶の角がシャープで,キレイに見えましたので,撮影しました.
産地:高知県室戸市室戸岬.(非売品)
15年くらい前に購入した標本です.四万十帯の堆積岩中に貫入した火成岩体で,橄欖石を多く含むので珍しいとラベルには記載されていました.標本の一部はいわゆる斑糲岩質ペグマタイトで,晶洞にペクトライトのような鉱物を晶出しているのが観察できました.ほか少量のチタン鉄鉱や紫蘇輝石を伴っていました.