石の話
湯の花の輝水鉛鉱
湯の花といえば温泉とか背後の山から出る桜石が有名で,そのほかはというとほとんど話題にも上がらないことが多い.温泉の南側の山でマンガンが古くから稼業されていたのは既知のことで,ほかは砥石くらいです.
このあたりは古くは大谷鉱山の鉱区があったそうで,その関係か桜石のでたところに細い石英脈が見られました.
先日,知人より湯の花温泉のボーリングコアという代物を頂戴しました.円柱状のボーリングコアは数本あって,一本以外はすべて白っぽい花崗岩でした.1本だけ石英脈に当たったものがあって,周囲がひどく鉄錆びに覆われていました.そのまま置いておくのも邪魔になるような大きさなので,小割しました.
鉄錆びに覆われたボーリングコアの一部.
ボーリングコアが当たっていた石英脈は最大幅約5㎜前後という薄いもので,脈の上盤は黒色のホルンフェルスが薄くへばりついていました.小割するときに,ホルンフェルスはパラパラと剥がれていって,石英脈の本体が出る部分が出てきました.ある程度まで割って剥がれたホルンフェルスと石英脈の境界を見ると,石英脈中に薄い空隙があって,微細な黄鉄鉱とペラペラの白雲母がついていました.
硫化物があるならほかの鉱物の何か出てくるだろうと期待して,石英脈の部分を斫りました.
もともと薄い石英脈でしたので,割っているときにいくらかの破片に分かれて割れて,チップになってしまいました.このチップの一部に先ほどの微細な空隙があって,それを追ってさらに刻んでいったところ,妙に青っぽい金属鉱物がついているのに気づきました.ボーリングコアの表面に近いところは擦れたのか外形が判別できないくらいの青っぽい染み状になっていました.この部分を先のとがった錐状の工具で,青っぽい部分を飛ばさないように注意して割りました.
青っぽい部分は金属光沢をしているものの,劈開の感じがかなり鈍く,硬度自体がかなり低いことが判りました.外形の判別できない青っぽい染み状の部分の横に銀白色の鉱物があって,黄鉄鉱かと思っていたところ,観察すると硫砒鉄鉱でした.近くの行者山に普通にみられる種類なので,当地のものもあっては不思議ではない.
外形がはっきりしなかったので,ビスマスかもしれないと期待を膨らまれました.斫ったときにチップになったほかの破片を空隙を探して刻んでいったところ,半自形結晶をした黄鉄鉱のそばに,さきほどの不定形の染み状の鉱物と思われる金属鉱物がついていました.
今度はやや外形がはっきりしている.肉眼でみたところ1円玉の半分くらいの大きさしかない母岩中に,青っぽい鉛灰色をした部分が1点だけという大きさでした.
顕微鏡で確認したところ, 輝水鉛鉱でした.
石英脈の拡大部.顕微鏡下での撮影です.右側に黄色っぽい黄鉄鉱を伴っています.白い部分は石英脈.褐色は水酸化鉄による被膜.
輝水鉛鉱は六角板状の結晶がいくつも重なったような集合をしていて,一部に六角板状の晶癖が確認できる結晶がついていました.
さらに拡大し撮影.輝水鉛鉱の六角板状の結晶が観察できます.
石英脈以外の花崗岩の部分も木っ端を刻んでみました.黒雲母花崗岩と思っていたのですが,黒雲母は一部が緑泥石になっているものがあって,少量ですが角閃石も入っていました.白色の長石は一部が斑状になっているところがあって,斑状花崗閃緑岩とも言えそうな岩石でした.
ほかにもと,刻んでいると黒雲母の一部に鉄錆びに覆われている部分があって,その中央に金属鉱物が入っていました.木っ端の一部を研磨のほうにまわして磨ってみたところ,鉄錆びが吹いていたところにあった金属鉱物は磁硫鉄鉱でした.本家の鞍馬石も内部に磁硫鉄鉱が含まれていてそのおかげで,味のある風貌が現れるようなことを,鞍馬本町の職人さんに伺ったことがありました.
これとは別に非常に細かい粒で俄かに粒の周りを赤く染めている部分があって,短波紫外線を当ててみたところ,オレンジ色に蛍光しました.ジルコンのようです.ペグマタイトに出るような大きなものではなく,花崗岩に普通に含まれる副成分としての産出です.それから副成分鉱物として普通にみられる磁鉄鉱はほとんど入っていませんでした.
あと見つかったのは白色の長石と灰白色半透明の石英との境界に黄色―橙色の板状の鉱物が1点だけ見つかって,独特の強い光沢でチタン石のようでした.
提供されたボーリングコアのうちの1本しか見ていませんが,以下の鉱物を確認しました.
石英脈: 黄鉄鉱・磁硫鉄鉱・輝水鉛鉱・石英・白雲母.
花崗岩の副成分鉱物:磁硫鉄鉱・ジルコン・チタン石など.